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ノーベル医学生理学賞に米英3氏、C型肝炎ウイルス発見の功績により

by 黒岩留衣
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2020年のノーベル生理学・医学賞は、肝硬変や肝臓癌を引き起こす世界的に主要な健康問題である血液媒介性肝炎との闘いに多大な貢献をした米国と英国の研究者に授与されました。

 

当時国立衛生研究所の血液銀行の臨床科学者だったハーベイ・J・アルターは、C型肝炎として知られる慢性型の肝炎は血液媒介性であり、おそらくウイルスによって引き起こされるであろうことを突き止めました。

数年後、英国生まれのウイルス学者マイケル・ホートンは、当時製薬会社ケイロンで働いていましたが、ウイルスのクローンを作成する方法を見つけ、宿主の免疫系によってウイルスに対して作成された抗体を特定しました。

これは、血液供給中のウイルスを排除するためのスクリーニングメカニズムの開発につながりました。

遺伝子解析を通じて、当時セントルイスのワシントン大学の研究者だったチャールズ・M・ライスはウイルスの特徴を明らかにし、科学者を治療法を見つける道へと導きました。

 

 

輸血によって感染することが多いC型肝炎は、肝臓に重度の炎症を引き起こし、年間40万人が死亡している危険な病です。

ノーベル委員会は、3人の研究者の研究を「ウイルス感染との戦いにおける画期的な成果」と呼びました。

 

肝炎ウイルスには主に2つの形態があります。

A型肝炎は汚染された水や食物を介して伝染し、致命的となることはめったにありません。

B型肝炎とC型肝炎は、血液や体液で運ばれ、はるかに危険な場合があります。

 

後者のウイルスは「潜行性」であるとノーベル委員会は述べました。

なぜなら、それらは危険な病気として発露する前に、明らかに健康な人の血液中に何年にもわたって「潜行する」可能性があるからです。

 

これらのノーベル賞を受賞した発見の前に、世界はこれらの血液媒介病原体を制御するのに大変に苦労していました。

遺伝学者のバルーク・サミュエル・ブランバーグ(後にノーベル賞受賞)は1960年代にB型肝炎を発見しました。

しかし、輸血を受けた患者は、ドナーの血液がB型肝炎ウイルスについてスクリーニングされた後であっても、依然として重度の肝疾患を患っていました。

 

「状況は極めて憂慮すべきものになりつつありました」とノーベル委員会のメンバーであるグニラ・カールセン・ヘディスタンは述べました。

この病気は沈黙しているが進行性であるため、明らかに健康な献血者の誰がこの病気の保因者であるかを知ることは不可能でした。

医師たちはこの危険な病気を「静かなる殺人者」と呼ぶようになりました。

 

アルターは輸血を受けた後に肝炎を発症した人々を丁寧に追跡しました。

1978年、彼はほとんどの病気がA型またはB型肝炎ウイルスによって引き起こされたのではなく「全く別の未知の感染性病原体」によって引き起こされたことを突き止めました。

しかし、病原体についての多くは謎のままでした。

アルターを非常に苛立たせたというその事実は、彼が1988年に書いたという一編の詩によって窺い知ることができます。

 

天にいらっしゃる偉大なる御方よ

我らに場所を指し示し、理由を御教えください

我らを突き動かす新たなる叡智をお授けください

このとらえどころのないウイルスを我らが見いだせますように

 

後に「アルターの嘆き」と呼ばれるようになったその詩篇への答えは「天の偉大なる御方」からではなく、英国の科学者ホートンからもたらされました。

彼は感染したチンパンジーの血液から見つけられる限りの多くの遺伝物質の断片を収集しました。

次に、ホートンは感染したヒトの血清をペトリ皿に加えました。

人の抗体はウイルスタンパク質に遭遇すると反応し、科学者はどの細菌がウイルスのRNAを運んでいるかを判断することができます。

その後、彼のチームは遺伝子断片を分析し、黄熱病と西ナイル熱を引き起こすウイルスを含むフラビウイルス科と呼ばれるウイルス群に非常に似ていること突き止めました。

 

実験には実に10年の時を要したと、後にホートンは語っています。

遂に「エウレカの瞬間(注1)」が訪れました。

「それは永遠かと思われるほどに、非常に緩やかに引き伸ばされた一瞬の出来事でした」と彼は言いました。

この研究は、血液供給中のC型肝炎をスクリーニングするためのテストの開発につながりました。

1992年にスクリーニングが開始されて以来、輸血による感染のリスクは劇的なまでに低下しました。

 

ウイルスを特徴づける最後のステップを担当したのはライスでした。

ライスはそのゲノムを配列決定し、ウイルスのクローンを作成しました。

クローンウイルスを注射された動物は病気になり、C型肝炎ウイルスが実際に病気の原因であったという決定的な証拠を提供しました。

 

遺伝子研究により、ライスはウイルスを微調整することもできたため、ペトリ皿での研究が容易になりました。

これにより効果的な抗ウイルス薬の開発の準備が整い、治療を受けた患者の95%以上が治癒を目指せるようになりました。

 

「HCV(C型肝炎ウイルス)の探究は執念の物語だったと思います」とライスはロックフェラー大学の研究雑誌シークのインタビューで語っています。

「最も決定的な要素は、血と汗と涙でした」

 

The Washington Post


注1)古代ギリシャの数学者アルキメデスは、王から複雑な形状の王冠の金の純度を測定するように求められ、苦悩していた。ある日、彼が風呂に入った時、風呂桶から水が溢れる様をみて「エウレカ!エウレカ!」と叫んだという逸話に由来する。

本来の意味は「わかったぞ、見つけたぞ」という意味の言葉であるが、アルキメデスの逸話から「偉大なる発見」という意味でも使われる。

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