Home ウォールストリートジャーナル 中国を超えた成長率:アイルランド経済の光と影

中国を超えた成長率:アイルランド経済の光と影

by 黒岩留衣
202 views

昨年は世界の経済大国の大半がマイナス成長となる中、アイルランドはプラス成長を遂げました。

この成功の背景には、低税率に引かれて同国に進出していた製薬およびハイテク企業の好調があると見做されています。

新型コロナウイルスのパンデミックで活況な業種です。

 

小国アイルランドは何年も前から、法人税率を低く抑えることで多国籍企業を呼び込んできました。

フェイスブックやアルファベット傘下のグーグルなど、ハイテク大手が首都ダブリンに立派な欧州本社を構える一方、ファイザーやメルクの国際部門MSDなど製薬大手は、大規模な工場を稼働させています。

今や、これら好調なセクターが生み出す利益によって、アイルランドの税収が増え、コロナに直撃されたその他大半の自国経済に対する多額の救済費用をまかなうのに役立っているのです。

 

新型コロナにより、アイルランドで製造された薬剤や、関連製品の需要が米国を中心に高まり、2020年の輸出量を過去最高に押し上げました。

一方で、動画ストリーミングなどデジタルサービスの需要も旺盛で、昨年12月の情報・通信セクターの生産高は、前年同月比9.7%増となりました。

そのおかげでアイルランドは、コロナ流行の最初の年に、プラス成長を遂げた数少ない国の一つとなったのです。

 

同国の統計局は5日、2020年の国内総生産(GDP)成長率が3.4%増だったと発表しました。

これは中国の同成長率2.3%増を上回る勢いでした。

ですが、通常なら活気あふれるホスピタリティー業界を含む国内経済の多くは、記憶にある限り最悪の一年を経験したのです。

 

ダブリンのパブ業界団体ライセンスド・ビントナーズ協会によると、政府の規制を受け、加盟する7000軒のパブの多くが、ヨーロッパ最長の営業停止期間に耐え続けており、実に3月15日には丸1年を迎えるのです。

「当協会は1817年に設立され、204年の歴史があります」

「その中で2020年は断トツで最悪の年だったと言っても過言ではないでしょう」

同団体のドナル・オキーフ会長はこう話しています。

 

統計局の推計では、2月の完全失業率は25%にも達しました。

コロナによる人員削減で職を失い、政府の特別給付金を受け取る人々もここに含まれています。

そうした労働者を仕事に復帰させるには時間がかかり、ワクチン接種計画に大きく左右されることになりそうです。

 

コロナがアイルランド経済に与えた影響が分野ごとに著しい違いのあることが、中央統計局(CSO)が5日公表した数字で明らかとなりました。

CSOが「多国籍セクター」と呼ぶ分野(ハイテク・製薬企業を含む)の生産高は18.2%も増加しています。

これに対し、同国経済の他の部分は9.5%縮小しました。

 

ヨーロッパ全体では、過去最悪のマイナス成長を記録しています。

2020年のユーロ圏GDPは6.8%も減少しました。

アイルランド経済が違いを見せた理由は、主に製薬とコンピューター関連サービスがアイルランドの最大産業の一角を占めていることによるものです。

 

アイルランド政府産業開発庁によると、2019年のGDPの3割以上をライフサイエンス分野が占め、中でも製薬が最大となっていました。

CSOによると、アイルランド製医薬品・薬剤の2020年海外売上高は、前年比25%増加し、同国の輸出総額1610億ユーロ(約20兆8350億円)の4割近くを占めるに至っています。

 

増加分の多くは米国向けでした。

アメリカ勢調査局によると、アイルランドからの薬剤輸入は6.8%増、薬剤の原料となる有機化学薬品の輸入は19.5%増となっています。

アメリカ製薬企業は1960年代終盤にアイルランドに進出し始めましたが、2000年代に入った頃から急速に事業を拡大していきました。

現在、世界上位10社の製薬企業のうち9社が同国に拠点を置いています。

最大規模のファイザーは、2020年のアイルランド工場の売上高についてコメントを控えました。

 

アメリカ企業にとって、アイルランドの魅力の重要な部分が、企業利益に課される税率の低さであることは、疑いの余地もありません。

2017年のアメリカ税制改正で、海外利益の課税方法が変更されましたが、アイルランドから米国への薬剤輸出がそれ以降増加し続けていることから、依然としてその魅力は薄れてはいないと言えましょう。

 

The Wall Street Journal:2020年3月9日

ブログランキングに参加しています

にほんブログ村 ニュースブログ 海外ニュースへ

⭐️更新の励みになりますので、みなさま是非クリックで応援してください。

原題:This Economy Grew Faster Than China’s Thanks to Big Tech, Pharma
引用:https://www.wsj.com/articles/this-economy-grew-faster-than-china-thanks-to-big-tech-pharma-11614951060

PR

外信記事を日本語でお届けします