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米軍撤退に怯えるアフガン市民

by 黒岩留衣
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トランプ大統領によるアフガニスタンでの米軍の撤退が発効する前でさえ、アフガニスタン政府がその統率力を失っているという明らかな兆候があります。

治安部隊が武装勢力の暗殺の可能性を警戒しているため、首都郊外の夕暮れ時には通りは空になります。

 

反政府武装勢力タリバンは店先に文書を貼り付けており、イスラム首長国(タリバンの自称)は、誘拐犯、略奪者、強盗を逮捕または即決処刑するだろうと警告しています。

タリバンの若い戦闘員であるアジジ氏は「米軍がアフガニスタンを去れば、タリバンは対話か武力でわれわれの法律をアフガン政府に適用させるだろう」と語りました。

 

彼はインタビューを受けるため、首都近郊の自宅からやってきました。

彼はアパートの3階から、近代的な喫茶店が立ち並び、学生でにぎわう中間層の居住地区を見渡してこう言いました。

「われわれはカブールでも、地方と同様にイスラム法のシステムに沿った行動を取るだろう」

 

何年もの間、アフガニスタン人は、米国主導の連合軍が永久に撤退した後に何が起こるかについて不安を抱いてきました。

その不安は間も無く現実のものになるかもしれません。

 

国防総省は今週、アフガニスタンの米軍の数を就任式前に約2,500人に減らす計画を発表しました。

これは、2月の約12,000人からのさらなる削減であり、10年前の約10万人のピークからはほど遠いものです。

トランプ大統領は国防長官マーク・エスパーを解雇した数日後に命令を出しました。

 

次期大統領のジョー・バイデンは、最初の任期中にすべての軍隊をアフガニスタンから撤退させたいと述べました。

北大西洋条約機構(NATO)は2024年までアフガニスタン軍に資金を提供することを約束しました。

現在ここには約7,500人の非米軍がいます。

しかし連合パートナーはアメリカ軍の撤退後にも、この国に人員を維持させる可能性は低いと見られています。

 

今年2月にタリバンがトランプ政権との間で米軍の段階的撤退に関する合意を結んで以降、アフガン市民の懸念は高まっていました。

タリバン側は見返りとして、アルカイダなどの国際テロ組織のアフガン国内での活動の阻止と、アフガン政府との和平交渉開始を約束しました。

和平交渉は9月に始まりましたが、現在は中断されています。

 

タリバンは米大統領選挙の後、バイデン氏が2月の合意を引き続き順守することを期待するとの声明を発表し、バイデン氏に対し「戦争を挑発するグループ」の意見を受け入れて合意を破ってはならないと警告を発しました。

 

2月の合意には停戦は含まれていませんでした。

米当局者らは、暴力的行為を大幅に減らすことでタリバンと認識が一致したと述べています。

 

しかしタリバンの戦闘員は戦場で優位に立ったと考え、その恩恵を最大限に活用してきました。

米軍の空爆が収まっている間に、戦闘員はヘルマンド州で大規模な攻勢を仕掛け、主要幹線道路を占拠し、政府軍の基地を包囲しました。

アフガン政府の分析によると、タリバンは2月以降、全国で1万3000件以上の攻撃を行い、全紛争期間を通じて最も暴力的な状況をもたらしました。

 

タリバンは、村やアフガニスタンの都市の周辺だけに拠点を置いているわけではありません。

過激派とその共感者が内部に浸透しています。

若いタリバンの戦闘員らはカブールの大学に通っています。

市内で爆破事件や奇襲攻撃による暗殺が相次いでいるため、中間層の市民たちは郊外に新設されたアパートに移り住んでいきました

市内の移動はあまりにも危険だと考えられているため、米国の外交官は大使館から空港までの約3キロの距離を車ではなく、ヘリコプターで移動している有様です。

 

アフガンで米国と協力している人々の多くは、米軍に大急ぎで出て行かれるのを恐れています。

彼らは米軍の永続的な駐留によって、自国が社会発展と繁栄に近づいていくと考えていたからです。

 

「タリバンと戦うためにやって来たのなら(アフガンを)タリバンに戻すべきでない」

米軍基地に物流サービスを提供する複合企業を立ち上げ、後にテレビ局を設立した起業家のファヒム・ハシミ氏はそう話しました。

「若者たちは新たな生活の仕方を学んだ。女性たちは新たな生活水準に慣れてきており、こうした人々を他の誰かに引き渡すことは許されない」

 

タリバンのイスラム戦闘員たちはかつてアフガンを支配していました。

そして、それは米国に悲劇的な影響をもたらしました。

 

タリバン政権は21世紀初頭、国際テロ組織「アルカイダ」の創設者である故オサマ・ビンラディン容疑者がアフガンを利用して2001年9月11日の同時多発テロの準備を進めるのを容認しました。

同事件では世界貿易センタービルや国防総省の本庁舎が攻撃され、3000人近くが死亡しました。

こうした事態を受け、米国主導の有志連合軍はアフガンに侵攻し、タリバンを権力の座から追放して、ビンラディン容疑者と、その信奉者をパキスタンの国境に近い山岳地帯に追い込みました。

 

米国とアフガンの当局者によると、タリバンはアルカイダとの関係断絶を約束しているにもかかわらず、いまだにアルカイダの戦闘員をかくまっているとみられています。

6月に出された国連の報告書によると、両組織は依然として「友情、同じ苦悩を共有してきた歴史、イデオロギー的な共感と組織間結婚を基にした」親しい関係にあると述べられています。

タリバンは米国との交渉中も、アルカイダに相談していたと言われています。

 

アフガンの情報機関によると、同国の特殊部隊は今年10月、東部ガズニ州でアルカイダの幹部を殺害したことがありました。

この幹部はタリバンの保護の下、同州で暮らしていたとみられています。

ワルダク州の山岳地帯で少数民族ハザラ人の武装組織を指揮する男性

 

国連によると、アフガンにはアルカイダの戦闘員が百人単位で存在しています。

過激派組織「イスラム国(IS)」は、国内東部に数百人の戦闘員を抱えているとみられます。

ISは、今月カブール大学で起きた爆弾および銃によるテロ事件など、最近のいくつかのテロ事件について犯行声明を出しています。

 

タリバンは、米軍の撤退を長い戦争の果ての勝利とみなしています。

ムスリム・アフガン氏(仮名)は2014年、タリバン強硬派のハッカニ・ネットワークの一員だったことを理由に投獄されました。

今年2月の時点でまだ拘束されていた彼は、駐留米軍削減の合意を受けカタールで行われた式典の様子を捕虜仲間とテレビで見ていたと述べました。

その時、みんなで「神は偉大なり!」と歓声を上げたと述べました。

 

その数週間後、アフガン氏は和平合意の一環としてタリバン側が釈放を要求していた捕虜5000人の名簿の中に自分の名前があるのを見つけました。

彼は5月に解放され、再びタリバンの戦闘員に戻りました。

 

「歴史的な日だった」

彼は10月、ハッカニ・ネットワークのメンバー1人とともに異例のインタビューに応じました。

「われわれは侵略者を撃退し、敵はこの国から撤退することを受け入れた」

 

タリバンがアフガン政府に対する圧力を強める中、米軍の撤退は、過去に米国が海外の戦地から撤退する際に見られたような混沌状態を繰り返す恐れがあります。

ベトナム戦争のサイゴン陥落時には、米大使館の屋上から人々がヘリコプターで脱出しました。

昨年は、ISの駆逐に協力したクルド人勢力を残したまま、米軍の装甲兵員輸送車がシリアから撤退しました。

 

2月以降、約7500人の米軍部隊が既に輸送機でアフガンを出国しています。

米国の民間請負業者はカンダハルにある巨大な米軍基地の解体作業を支援するよう要請を受けているほか、バグラム空軍基地の資材や機器を徐々に撤去しつつあります。

現地のバザールの業者らによれば、アフガン人労働者らは廃棄された資材や金属スクラップをかき集め、地元の市場で売却しているとも言われています。

 

国連および米政府当局者によれば、タリバンは、アフガン国内のケシ栽培地を基盤とした年間何億ドル相当ものアヘン取引に基づく経済力を持ち、国内に「並立国家」の足場を築き上げました。

支配下にある地域で鉱物資源や宝石原石の採掘、特定の課税などによって収入を確保し、独自の司法制度を運用しています。

 

駐留米軍はこのところ前線での戦闘は行っていないものの、アフガン政府部隊に対する空からの軍事支援は継続しています。

最近では、10月にヘルマンド州の州都に対するタリバンの攻撃を食い止める支援を行いました。

米国はまた、他のNATO加盟国とともにアフガン政府部隊に対する訓練や助言も行っています。

 

アフガン国民の多くが懸念するのは、タリバンが政府との和平交渉で巨大な政治的影響力を確保するために米軍の撤退を利用すること、あるいは武力で同じ目的を達成しようと試みることです。

アフガン政府の治安部隊は数十万人の兵士と警官から成り、激しい戦闘の大半は、約2万人の十分に訓練された武装兵士が担ってきました。

タリバンの猛攻を受けても、治安部隊が完全に崩壊する可能性は小さいとみられています。

ですが過去には、米軍の上空からの支援がなければ都市部の地域を防衛する能力がなかったことが明らかとなっています。

西側の安全保障問題アナリストらによれば、国内約400地域のうち政府が完全に掌握しているのは3分の1に満たないとのことです。

 

アフガン当局者によれば、米軍の軍事支援がなければ治安状況が急激に悪化し、全国の有力者とイスラム主義の戦闘員が領地をめぐって争う内戦状態に陥る可能性が指摘されています。

 

アフガン政府のハムドラ・モヒブ大統領顧問(国家安全保障担当)はインタビューで「人々はタリバンの復活に対する懸念を強めており、自衛のために武装する手段を探している」と指摘しました。

一方、タリバンは「米国の支援さえなければ、全ての州と中央政府を1カ月で制圧できると考えているようだ」と彼は述べています。

 

 

Afghanistan Braces for Worst as U.S. Troop Withdrawal Accelerates

The Wall Street Journal

当初、私はトランプ大統領が選挙目当てに投票日よりも前に撤退を実行させるのでは無いかと思っていた時期がありました。

撤退計画の発表自体は投票日よりも前に行われましたが、撤収は来年の1月15日までに実行されるそうです。

大統領就任式が1月20日ですから、言葉は悪いですが、バイデン新大統領への悪意のある置き土産のような気もします。

 

性急な規模縮小は「米国は撤退を望んでいるのだから、アフガン政府との交渉で妥協する必要はない」とのタリバン側の見方を強めることになるでしょう。

事実、タリバン側とアフガン政府の交渉は、予想に違わず全く進展がなく、停滞したままです。

 

余談ですが、先の米国大統領選に先立って、タリバンはトランプ大統領の再選を強く支持しており、アラーの神の御加護によって彼は再選を果たすであろうとの声明を発表しています。

 

管理者 黒岩留衣

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