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救われたジャイアントパンダ、救われなかったドール(アカオオカミ)

by 黒岩留衣
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中国を象徴する動物とは何でしょう?

そう問われて『(ジャイアント)パンダ』と答えない人はよっぽどの変わり者です。

 

ジャイアントパンダ:中国四川省・成都大熊猫繁育研究基地

中国は国の象徴的な動物、ジャイアントパンダを保存するために何十年も費やしており、近年その成功を祝っていますが、それらの努力は、その生息地を共有するヒョウや他の大型肉食動物を保護することには失敗したようです。

 

パンダのステータスは、2016年に「絶滅危惧種」から「危急種」に変更されました。

これは、数十年にわたる中国の保護活動が報われたことを示しています。

 

しかし、中国と米国の合同チームが月曜日に発表した新しい調査によると、いくつかの肉食性個体群は、同じ期間中に、その数に急激な減少が見られたと言います。

それは、より大きな生態系が危険に晒されている可能性があることを意味します。

研究はNature Ecology&Evolution誌に掲載され、66のジャイアントパンダ自然保護区を含む、中国の73の保護区が調査されました。

 

パンダは中国ではアンブレラ種として知られています。

つまり、パンダを保護するための対策は、他の種やより大きな生態系を保護するためにも同様に役立つと専門家は信じているということです。

これは小さな肉食動物などの一部の種に当てはまる可能性がありますが、このアプローチでは生息地のニーズと行動が異なり、現在脅威にさらされている大型の肉食動物の保護には該当しないようです。

 

ドール:米国・サンディエゴ野生動物公園

研究者たちは、過去の調査データとカメラ調査を駆使して、ヒョウ、ユキヒョウ、オオカミ、ドールの4種が、これらの保護区の多くから姿を消したことを発見しました。

ユキヒョウは保護区の38%から姿を消しました。

その他の数値は、オオカミが77%、ヒョウが81%、野生の犬の一種であるドール(別名アカオオカミ)に至っては95%と驚異的です。

 

「これらの調査結果は、この地域における生物多様性保全のための単一種保全政策への依存に対し、強い警告が発せられていることを示している」と研究者達は言い、これらの壊れやすい生態系を保護するため、即時の行動を促しました。

73の保護区は、主に中国中部を走るパンダの人口分布で、5つの山脈に広がっていました。

研究者たちは、動物の目撃情報を記録するために、これらのエリア全体の7,830か所にカメラを設置しました。

 

これほどの大規模な調査努力にもかかわらず、研究者たちは、4件のドール目撃情報、11件のオオカミ目撃情報、45件のヒョウ目撃情報、309件のユキヒョウ目撃情報のみを報告しました。

ユキヒョウ:ドイツ・シュツットガルト動物園

これらのあまりに低い数字は非常に憂慮すべきであり、研究者達は「それらは、もはやそのエリアの頂点捕食者としての生態学的役割を果たしていない」と述べました。

 

いわゆる「頂点捕食者」とは、食物連鎖の頂点に位置し、生態系の健康を維持する上で重要な役割を果たす動物を言います。

安定した捕食者集団が獲物を狩るとき、それらは食物連鎖のバランスを保ち、1つの種が過密になったり、生息地の資源に過度の負担をかけたりすることはありません。

 

 

捕食者の個体数が減少すると、それは他のすべての個体群の規模と行動に影響を与えるだけでなく、環境の健康にも影響を及ぼします。

調査によると、伐採、生息地の喪失、これらの動物とその獲物の密猟、病気などの数多くの要因により、1990年代以降、4つの肉食動物の数は激減しているということです。

 

 

1970年代以来、絶滅危惧種の科学者たちが種を絶滅から救うために競争し、中国原産で世界中で愛されているジャイアントパンダが集中的な注目を集めるキャンペーンの象徴となりました。

彼らは繁殖が難しいことで有名ですが、野生のパンダの個体数は近年増加し、中国の保護活動はついに優れた成果をあげたといえます。

これらの取り組みの重要な部分は、広大なパンダ保護区の設立です。

パンダは長い間生息地の喪失に悩まされてきたので、中国はいくつかの山脈に巨大な保護区を建設しました。

 

成都大熊猫繁育研究基地

2017年、中国は27,134平方キロメートル(10,476平方マイル)の保護区の計画を発表しました。

これは、イエローストーン国立公園の約3倍もの大きさです。

ジャイアントパンダを保護・育成する「成都大熊猫繁育研究基地の局長である侯栄氏は「それは生物多様性の避難所となり、生態系全体を保護することになるでしょう」と誇らしく語ったことがあります。

しかし、月曜日に発表された研究が示した現実は、侯栄氏の言葉が、これらパンダ保護区のほとんどに、まったく当てはまっていないことを示しています。

 

ヒョウやオオカミのような種は、生息地のニーズが大きく異なります。

彼らは豊富な獲物に依存しているため、パンダに比較すると狩猟に最大約20倍ものスペースを必要としています。

これらはすべての肉食動物をパンダよりもはるかに高い狩猟圧力にさらす要因となります。

そして、パンダのみに焦点を当てた保護活動が、他の種の固有のニーズに対処できない理由でもあります。

 

調査を率いた北京大学生命科学院の李晟博士は「これらの異なる生息地の要件と脅威により、ジャイアントパンダは大型肉食動物の保護に効果的なアンブレラ種になることができなくなり、大型肉食動物種を保護するために特定の計画が即時に必要であることを示唆している」と述べました。

李博士は「多種のアンブレラアプローチを使用すべきである」とも付け加えました。

「ジャイアントパンダだけでなく、大きな肉食動物を含む異なる種を念頭に置いて政策を立て、対策を実施するべきである」

 

専門家はまた、他のあまり知られていない絶滅危惧種から注意をそらし、より大きな生態系の必要性を覆い隠す「フラグシップ種(旗艦種)」の人気と保護にあまりにも狭く集中することの危険性を以前から警告してきました。

 

この研究の研究者たちは、各山脈に固有の問題に対処する計画、生息地の回復、密猟の禁止、家畜数の制限、および人間と野生動物の対立のより適切な管理を求めるいくつかの行動方針を求めました。

 

こうした措置を用いても、頂点捕食者が、その個体数を回復するまでには数十年もかかる可能性があると研究者たちは述べています。

ジャイアントパンダに限るのみならず、他の野生種にとっても、生態系の回復力と持続可能性を高めることは必要な目標であると彼らは語りました。

 

(参照:CNN

 


 

パンダは繁殖が難しいことは日本でも報道されていますが、繁殖期が年に1回、それもわずか数日しかないことも要因として挙げられています。

繁殖のタイミングを逃すとオスとメスが互いに相手を攻撃してしまう可能性もあるために関係者を長らく困惑させてきました。

近年、繁殖期を迎えたパンダは特別な匂いと鳴き声でパートナーを呼ぶことがわかってきました。

こうした発見は中国四川省にある成都大熊猫繁育研究基地の研究者たちの成果でもあります。

 

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