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バッタの『変身』のメカニズム

by 黒岩留衣
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中国と国境を接するパキスタンやインドでは過去70年間で最悪の蝗害(バッタによる作物被害)に苦しめられており、被害は深刻化しています。

インドやパキスタンで大量発生しているバッタは移動や繁殖が早いとされるサバクトビバッタという種類。

国連食糧農業機関(FAO)によると、群れは約1キロ四方の規模で、1つの群れに数千万匹に上る成虫がいると推定され、群れは1日毎に約3万5千人が食べるのと同じぐらいの量の(野菜などの)食料を食べるそうです。

 

参照:東京新聞

 

さて、このバッタ。

本来ならば彼らは、内向的で臆病な性格で、孤独を好み、集団を形成しないことが知られています。

つまり、バッタは同種であっても、自分の生活エリアに他の個体が侵入することを嫌う性質を持っているのですが、空を覆うほどの大量発生が起こった場合、姿形も、色も、性格までも『変身』することが知られています。

今日はこのサバクトビバッタの『変身』のメカニズムについてお話ししていこうと思います。

 

イラストは東京新聞

英国の専門家チームは、バッタが孤独相から群生相に相転換するのは、脳内の神経伝達物質セロトニンが原因であることを突き止めた。

米科学誌「サイエンス」で発表された。

バッタの後ろ脚をくすぐると、2時間後、そのバッタは、作物を食い尽くす巨大な群れを構成する一員となる準備が整う。

これは、脚をくすぐって刺激するのは、通常1匹で行動するバッタが、食糧不足のために集団にならざるを得ない状況でぶつかり合うのと同じ状況を作り出すことになるためだが、研究者らは群れを作る理由は分かってはいたものの、急激な生物学的変化が起こる仕組みについては90年以上も頭を悩ませていた。

 

研究結果によると、セロトニンが、個々のバッタを敵対関係から引きつけ合うように変えるという。

また、群生相のバッタのセロトニン水準は孤独相のバッタより3倍も高いことも判明した。

 

参照:AFP通信

 

解説しましょう。

セロトニンとは、別名『しあわせホルモン』と呼ばれる脳内ホルモンで、「ノルアドレナリン(神経を興奮させる)」や「ドーパミン(快感を増幅させる)」と並び、感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する三大神経伝達物質の1つです。

心のバランスを整える役割を持ち、精神安定剤とよく似た分子構造を持ちます。

 

バッタは本来は孤独を好む昆虫ですが、食糧が不足するような集団発生が起こった場合、つまりお互いの個体が触れ合い、後ろ足がぶつかり合うような状況が起こった場合、なぜか『幸せホルモン』が大量に分泌されてしまうのです。

 

そしてバッタたちの心が『幸せホルモン』によって満たされた場合、お互いを生存競争のライバルとは見做さず、むしろ共存し、助け合うべき仲間と認識するようになります。

その結果、バッタたちは群れを形成し、集団となって人が作った作物を食い荒らすようになるわけです。

 

日本で人気のある仮面ライダーは元々、バッタをモチーフにしたことで知られていますが、仮面ライダーが人類の平和を脅かす悪の秘密結社の卑劣な行動に対する『怒り』で『変身』するのに対し、バッタは『ハッピーな気分』が高揚することで『平和主義』に目覚め、お互いがお互いを攻撃しあうことを放棄し、『愛の讃歌』を合唱しながら仲良く人類の食糧を奪いに行くために『変身』するというわけです。

 

ちなみにメスのバッタは成虫になると1週間から10日おきに産卵し、生涯をかけて約400匹ほどの子を残すそうです。

現在、インドやパキスタンでは第三世代(親→子→孫)まで確認されており、今月中にも第四世代が成虫になると予想されています。

仮に第四世代が頭角を現した場合、現在1キロメートル四方に渡って存在している1つの群が、単純な言い方をすれば400倍に膨れ上がることになり、それこそ空を覆い尽くすほどの数になるかもしれません。

 

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