ドイツのアンゲラ・メルケル首相は政治家であると同時に科学者でもあります。
彼女の回顧録によれば、旧東ドイツで生まれた彼女は、幼い頃から『神童』と呼ばれた優等生だったそうです。
そんな彼女が少女時代に『生涯一回だけ』の落第点をとったことがありました。
その科目が『物理』だったそうで、余程悔しかったらしく、それ以降、猛然と物理に没頭するようになり、気がついたら『量子化学』の博士号を取得して、物理学者と呼ばれるようになっていたと語っています。
メルケル首相の意思の強さを語る上で欠かせないエピソードなのですが、今回の新型コロナウイルスのパンデミックに対応するにあたって、科学者たちの提言に積極的に傾聴した理由でもあると言われています。
そんなメルケル首相が率いるドイツは、欧州においては比較的感染者が少なく、コロナウイルス感染拡大の阻止という意味で『欧州における成功例』と信じられていましたが、ここにきて大規模なクラスターが発生、国の一部を再びロックダウンせざるを得ない状況になりました。
これについては、英国レディング大学の分子微生物学者サイモン・クラーク博士も同様の見解を示しています。
ドイツにおいては食肉加工工場だけが懸念されているわけではなく、ロバート・コッホ研究所の発表によれば、先週、ドイツ国内の新規感染者は1週間で25パーセント以上増えているとのことです。
3月の初めにウイルスが急速に広がり始めたとき、アンゲラ・メルケル首相は、ドイツの分散型連邦制度の障害を克服し、ヨーロッパでも最も厳しい封鎖策の1つを課すことを国内の16の州知事の間で徹底させました。
しかし、数週間後、新しい感染者の数が減少するや、人々は屋外に出て天気の良い日をリラックスして過ごしたくてムズムズするようになり、各州の知事も落ち着きがなくなりました。
そのため政治的圧力が上昇し、やむなくメルケルはロックダウン解除の規模と速度について、州独自のガイドラインを設定することに同意しました。
ただし、条件付きで。
メルケルの科した条件とは、人々が公衆衛生におけるガイドラインを厳守し、用心深さを失わないようにすること、そして感染者の人口比が10万人あたり50人を超えないことでした。
メルケルの基準をクリアするためには、R値として知られる『再生産値』が重要な意味を持ちます。
R値が1未満であれば、コロナウイルスの感染拡大を過去形で語る権利が与えられるからです。
先週末のピークではR値は2.88まで上昇しました。
今のところはまだ『感染者の人口比が10万人あたり50人を超えないこと』という基準は崩壊されてはいないようですが、危機的な状況は変わりありません。
ドイツが再び全国規模のロックダウンを回避できるか否かは、『勤勉にして頑固』と言われるゲルマン民族の意志の強さに委ねられています。
少女時代のメルケルがそうであったように。