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見捨てられたと嘆く人々

by 黒岩留衣
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アメリカは、コロ​​ナウイルスの予防接種が広範に利用できる数少ない国の1つです。
「世界中の人々は、全てのアメリカ人が近所のドラッグストアで容易に手に入れることができる予防接種を切望しています」とバイデン大統領は水曜日に語りました。
しかし、取り残されたと感じているアメリカ人のグループがいます。
海外在住のアメリカ人たちです。

 

「私たちは税金を払い、投票もします」「なぜワクチン接種を受けられないのでしょうか?」タイに住むアメリカ人であるロラン・デイビッドソンさんはそう尋ねました。
これまでのところ、彼女の要求は拒否されています。
ホワイトハウスのジェーン・サキ報道官は先月、記者団に対し「これまで海外に住むアメリカ人に民間医療を提供してきませんでした」「我々の方針もこれを踏襲する立場です」とコメントしました。

 

デイビッドソンさん(76歳)と彼女の夫は、退職後にニューヨークからタイに引っ越しました。
彼らはバンコクの南東約60マイルにある街、パタヤに住んでいます。

 

デビッドソンさんの86歳の夫は太りすぎで血圧が高いため、新型コロナウイルス感染症の合併症のリスクが高まっており、また10月の事故で部分的に身体障害を負いました。
加えて仕事を抱えていることも相まって、彼らが米国に帰国することは問題外です。

 

国務省の統計によりますと、推定で約900万人のアメリカ人がアメリカ国外に住んでいます。
他のほとんどの国の在外国民とは異なり、彼らは米国の税金を支払う必要があります。
それゆえ、ここ数週間で、アメリカが承認したコロナウイルスワクチンを受ける資格があるべきだと主張する声が高まっているのです。

 

波乱に富んだスタートの後、国務省は4月に世界中の大使館職員へのワクチン接種を完了したと発表しました。
しかし、海外に住むアメリカ人にとっては、事はそれはそれほど単純ではないと言います。
ワクチンは多くの国で不足しているからです。

 

タイで働くアメリカ人たちは、現地の検疫要件により、祖国と現地を往復する試練には、最大6週間もかかる可能性があると述べています。

 

「私たちの一部は受け入れ先の国でワクチンを接種できますが、私たちは皆、米国政府が世界中のすべての市民がワクチンを利用できるようにするため、適切な措置を講じるべきであること考えています」と海外の民主党の指導者達からバイデン大統領に宛てた公開書簡に書かれていました。

 

ドナルド・トランプ大統領によって任命された2人の元米国大使は、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄せた論説で、インド太平洋地域での最近の感染の急増により、この問題の緊急性が高まっていると主張しています。

 

この一連のキャンペーンはここ数週間で勢いを増していますが、これは主にタイ在住アメリカ人によるものです。
タイでは感染者が急増しており、約6,900万人の国民のうち、ワクチン接種を受けているのはわずかに4%未満でしかありません。

 

タイ政府は最近、同国が月曜日に大規模な予防接種プログラムを開始するときに、高齢者や基礎疾患のある人を始めとして、同国に住む外国人が接種を予約できるようになるだろうと発表しました。
デビッドソンさんは2つの病院に登録していますが、病院のスタッフは、彼女と彼女の夫がいつワクチン注射を受けることができるようになるかは分からないと彼女に告げました。

 

しかも、これまでのところ提供されているのは中国のシノバック製のワクチンであり、世界保健機関が最近緊急使用を承認したこのワクチンは、病気の予防という観点ににおいて、アメリカのFDAが承認した他の予防接種よりも効果的ではありません。

 

タイの現地パートナー企業によってワクチンが製造されているアストラゼネカは、今月、同国で600万回分のワクチンを提供する予定です。
タイ在住のアメリカ人を代表する組織の連合は、アントニー・ブリンケン国務長官とウェンディ・シャーマン国務副長官に対し、自分たちを「見捨てないで欲しい」と要望しました。

 

一方、AP通信によると、広範なワクチン外交に勤しんでいる中国は、海外に住む中国人に予防接種を行うための「春の芽」計画の一環として、タイに住む市民にワクチンを接種し始めたと伝えられています。
中国の人民日報によると、この計画が3月に開始されて以来、少なくとも120カ国の50万人以上の中国人がこのイニシアチブの恩恵を受けたと言われています。

 

タイ政府が中国からの50万回分のワクチン寄付を受け入れたとき、現地在住の中国国民にワクチンを接種するために一部を確保することに同意しました。
「中国大使館は、ここにいる市民がワクチンを確実に受けられるように配慮しています」とデビッドソンさんは言いました。
「なぜアメリカはできないのですか?」

 

海外在住のアメリカ人の団体によるロビー活動は、世界的な健康上の緊急事態にあって、アメリカ政府が市民に負うべき責任について、より大きな疑問を投げかけているといえるでしょう。
それは、ワクチンの公平性という概念に鑑みて、アメリカ政府が世界に対して負うべき責務とは何か?という問いです。

 

帰国した人々はアメリカのワクチン導入の成果を享受することは可能です。
他方、自国政府の政策のせいで、ワクチンへの世界的なアクセスの不平等が、他の国、特に発展途上国でのワクチンの入手可能性に悪影響を与えています。

 

戦略国際問題研究所の国際保健政策センターの所長であり、元外交官のスティーブン・モリソン氏は、米国大使館は大量の予防接種を実行する準備ができていないと述べました。
「アメリカ政府が、この責務を引き受けたいと思うかどうかについては、私は懐疑的です」と彼はコメントしています。

 

しかしながら『パンデミックは非日常的な措置を必要としています』とバンコクを拠点とする元弁護士であるマイケル・マーチ氏は述べています。
「私たちはこれを医療の問題とは考えていません。 それは国家安全保障の問題です」と彼は言いました。

 

チュニジアの非営利団体で働くオアン・プルードホームさんは、5月初旬に夫と2人の幼い子供を連れてメリーランド州に戻りました。
アフリカで1人当たりのcovid-19死亡率が最も高い国であるチュニジアは、コロナウイルスの第3波に揺れていました。
プルードホームさん(38歳)は、彼女と彼女の夫が、現地で予防接種を受ける資格を確保するまでには数か月かかるであろうことを知っていたのです。

 

彼らはメリーランド州のケンジントンに到着した後、ファイザー社のワクチンを摂取することができましたが、飛行機のチケット代、宿泊施設代、レンタカー代を含む旅行には、家族で7,000ドル以上もの費用がかかりました。
「飛行機で5週間、アメリカに帰国する代わりにワクチンを入手できたら、もっと簡単だったことでしょう」とプルードホームさんは語っています。

 

一方で海外在住アメリカ人の提案に懐疑的な人々もいます。
彼らは、現地在住のアメリカ人に優先的にアクセスできるようにすることは、2層のシステムを構築し、ワクチン接種の格差に関する緊張を高めることになるかもしれないと警告しています。

 

「ワクチンへの手頃な価格のアクセスという点で大きな課題に苦しんでいる国々では、膨大な備蓄を抱え込んでいる西側諸国に怒りと憤りを感じているかもしれません」とモリソン氏は述べています。
「それは外交的に大きな問題だと感じています」

 

ホワイトハウスは木曜日、ラテンアメリカとカリブ海、南アジアと東南アジアとアフリカ、そしてパレスチナの領土の「幅広い国々」に2500万回分のワクチンを分配すると発表しました。
ですがそれは、一部の海外在住アメリカ人をがっかりさせるかもしれません。
彼らは、中国政府が行ったように、その国に住む米国人にワクチンを提供することを望んでいるからです。

 

モリソン氏は、アメリカ政府がワクチンの寄付量を増やせば、その要求は幾らか和らぐ可能性があると考えています。
「もし米国や他の先進国が、このワクチンへのアクセスに関する難解な暗号を解読するために、さらなる努力を始めれば、環境が少しは変わるかもしれません」
「そうなれば、この問題が、今ほど厄介なものではなくなるのかもしれません」と彼は語りました。

 

 

The Washington Post:2021年6月7日


原題:American expats push for access to coronavirus vaccines, raising questions about international equity
引用:https://www.washingtonpost.com/world/2021/06/06/americans-abroad-vaccines/

一体何が平等で、何が不平等なのかを一概に語るのは困難です。
多くの海外在住のアメリカ人は、やはり現地の人々に比べれば裕福であり、ある意味で特権的な生活をしているとも言えます。
そうした彼らの不平不満は、現地の人々の目にはどのように映っているのでしょう?
海外に住み、その地で暮らすということは、その国の生活の現実を受け入れるという意味ではないでしょうか?


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