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習近平は世界の覇権を掴むため欧州を狙う

by 黒岩留衣
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大国間の競争である国が取り得る一つの戦略は、競争相手の国から同盟諸国を引きはがし、自国の利益に沿う方向へと方針転換させることです。

1972年にリチャード・ニクソン米大統領は、米国の外交史の中でも最も大胆かつ最も影響の大きい行動の一つに挙げられる北京訪問に踏み切りました。

当時の中国政府は、ローカルプレーヤーに過ぎず、核保有国であったものの、米国や旧ソ連にとって同格の競争相手にはほど遠い存在でした。

ニクソン氏は、中国を米国の影響力拡大のための道具に利用しようと考えたわけです。

 

 

われわれは今、中国政府が戦略ゲームをいかに巧妙に展開しているかを目撃しようとしています。

欧州は長年にわたり、中国の世界戦略の中心に位置してきました。

欧州の輸入品のおよそ75%は海を渡って来るため、北大西洋を通るルートは極めて重要です。

中国はまた、欧州の主要な港の経営権の獲得を積極的に進めています。

 

最も重要なことは、中国が「一帯一路」構想とその投資を通じ、欧州からアジアにわたって広がる大陸に代替的なサプライチェーンを構築しようとしている点です。

中国政府の望む最終段階は、確立された貿易の流れの「世界的な反転」と呼び得るものです。

確立された貿易の流れは現在、大西洋ルートが中心で、米軍の海軍力がそれを支える仕組みになっています。

中国がユーラシア大陸を横断するサプライチェーンを構築し、且つそれを保護できれば、海上領域で米国に匹敵する力を持つ必要はなくなります。

 

中国がこれを行える理由は、米国が中国を「危険な存在」として見るように欧州諸国を説得することに失敗しているからです。

米国政府は今や、中国を経済および軍事面で最大の脅威と認識しています。

欧州の指導者らは、中国による威嚇行為への懸念を強めている反面、米国の反中同盟に引きずり込まれたくないとも思っています。

 

 

このような状況は中国にとって明らかに好機です。

中国が米国と欧州の間にくさびを打ち込むことができれば、大西洋両岸の正常な関係は過去のものになるかもしれません。

このような大変化が起きれば、欧州は大西洋の向こう側にあるユーラシアへの玄関口から、中国が支配するユーラシアの供給網の終着点へと変わるでしょう。

これにより、中国政府は最終的に欧州を支配し、果ては世界の覇権の掌握を試みることすら可能になるかもしれません。

 

中国の欧州戦略には、軍事的な要素もあります。

人民解放軍は、欧州、とりわけ地中海と黒海で、港へのアクセスを得ようと積極的に動いてきました。

人民解放軍はロシア海軍のほか、2018年にEU海上部隊とアデン湾で初の海上演習を行って以降は、EUとも合同訓練を実施しています。

 

中国はギリシャ、スペイン、エジプト、イタリア、モロッコを含む地中海沿岸の港湾に権益を保有するほか、ジブチをアフリカでの影響力をより深く浸透させるための拠点と位置づけ、同国では中国海軍が支援基地を運営しています。

また、中国海軍がバルト海に入っているほか、3万3000トンの原子力砕氷船の建造計画を進めるなど北極圏での対応能力への投資を行っています。

中国はこのほか、2035年までに原子力空母4隻の就航も計画しています。

 

中国は欧州を、世界の覇権国家として米国よりも有利な立場に立つために富や技術を搾り取ることのできる地域であると見なしています。

そうした意味で欧州は魅力的なターゲットなのです。

 

欧州大陸は新型コロナウイルス感染症のパンデミックからの経済回復を図る中、新たな市場へのアクセスや資金を必要としています。

北大西洋条約機構(NATO)加盟の中欧、東欧諸国にとってはロシアが脅威となる中で、中国はまた、欧州内の亀裂を利用する機会を得ているといえます。

 

一部欧州諸国での反米気運の高まりにより、EUはロシアの脅威についてのコンセンサスを得ることが困難になっており、中国とロシアは連携して、欧州と米国の関係に生じた亀裂をより深く抉ろうとするでしょう。

ほころび状態にある米国と欧州の関係、とりわけ米国とドイツの関係が対立を増しつつあることは、彼なりのやり方で「現代のニクソン」の役割を演じる絶好の機会を習近平氏に提供していると言わざるを得ません。

 

アンドリュー・A・ミクタ
The Wall Street Journal


アンドリュー・A・ミクタ氏はドイツバイエルン州南部の都市ガルミッシュ・パルテンキルヒェンにあるジョージ・C・マーシャル欧州安全保障研究センター傘下の国際安全保障研究大学の学部長です。

この寄稿文に書かれた内容はすべて彼個人に帰属します。


欧州連合は14日、中国とオンライン形式で首脳会談をおこないました。

中国国営新華社通信によると、習近平氏は会談で中国の問題、特に人権に関する干渉を拒否し「中国人民は人権に関する『他国の指図』を受け入れない」と語ったとのことです。

我ながら嫌な言い方ですが、中国が人権を踏みにじり、一部の国に対する傍若無人な言動を繰り返し、国際社会の懸念を無視または軽視してくれているからこそ、EUは中国に対する警戒心を維持していられるのかも知れません。

そうでなければ、コロナウイルスのパンデミックによって深く傷ついたEU諸国は、中国市場へのより深い関係を自ら模索していたでしょう。

仮にそうなっていたら、欧州における中国の影響力はますます強化され、中国が世界の覇権国家に一歩近づくことを許したかも知れません。

 

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