ベラルーシには近年、安価な労働力と政治的安定によって惹きつけられたシリコンバレーや欧州の新興企業が集まり、今も旧ソビエト連邦時代の重工業と集団農場が中心の同国経済に貴重な明るさをもたらしてきました。
しかし、26年もの長きにわたって政権を掌握するアレクサンドル・ルカシェンコ大統領に対して退陣を要求する反政府デモ隊が、恐怖と暴力的によって弾圧され、その結果、テクノロジー業界の未来もまた危ういものになりつつあります。
社員や幹部が抗議デモを支援する一部のIT企業のオフィスには治安部隊が強制捜査に入りました。
それどころか一部の社員の拘束も起きています。
街頭デモが拡大する傾向をみせる中、当局はインターネットを遮断したり、ソーシャルメディアへのアクセスを妨害したりしているため、インターネットが断続的に不通になり、IT企業の日常業務に著しい支障が出ています。
一部の起業家は安全を考慮し、社員を他国に移し始めています。
投資家は8月の大統領選後の国の混乱に動揺を隠せないでいます。
取り締まりを止め、新たな選挙を実施しなければ、多くのテクノロジー企業が国外に脱出するだろうと警告する公開書簡には関係者2500人が署名しています。
ルカシェンコ氏は大統領選での勝利を主張しましたが、反対派や欧州連合は『自由でも公平でもない』選挙だったと指摘しています。
「私たちは恐怖の中で暮らしています。これではビジネスはできません」とロケットデータのダリヤ・ダニラバ最高経営責任者は話しています。
ベラルーシの首都ミンスクに本社を置く同社はマクドナルドやナイキ、サムスンなどのネット上のレビューの管理業務を行っています。
ダニラバ氏のスタッフのうち数人は既に隣国ウクライナに移りました。
米国に本社を置くソフトウエアエンジニアリング企業EPAMシステムズも一部の社員を他の地域に移しています。
同社は動かした社員の数を明らかにしませんでしたが、ベラルーシ情勢を深刻に受け止めているとコメントしました。
カリフォルニアに本社を置くソフトウエア企業パンダドックの社内調査では、ベラルーシで働く250人の社員のうち83%が転勤を希望しています。
企業の幹部や採用担当者によると、テクノロジー企業数十社が既にベラルーシからの完全撤退に向けて動き出しているそうです。
隣国のリトアニアか、あるいはポーランドへの移転を計画している企業もあります。
ただし、今でも国営企業が国内総生産の約半分を占めるという統制型のベラルーシ経済においてはテクノロジー業界は成長の原動力です。
それだけに同国にとってテクノロジー企業の国外脱出の代償は大きいと経済アナリストは指摘しています。
ベラルーシの平均月収は約400ドル(約4万2000円)ですが、テクノロジー業界の平均月収は1500ドルから2000ドルです。
同部門は既にベラルーシのGDPの 7.6%を占めています。
経済特区「ハイテクパーク」から昨年輸出されたソフトウエアやサービスは20億ドルを超えています。
一部の業界幹部によると、ベラルーシでテクノロジー業界が大きく発展したのはルカシェンコ大統領が業界を無視したからだといわれています。
大統領はインターネットを「ごみの山」だと言ったことがありますが、それでもテクノロジー企業は政権と共存してきました。
優遇税率と簡素な規制制度の恩恵を受ける一方で、彼らは政治には関与しませんでした。
ですが、こうした関係は先月9日の大統領選挙の前から既に変わりつつあったようです。
元駐米大使で、ハイテクパークの設立にも関与したバレリー・ツェプカロ氏は大統領選への出馬を禁じられ、ベラルーシを出国しました。
一部のスタートアップ企業は開票を監視し、選挙違反のデータを収集するアプリを制作しました。
ロケットデータのCEOダニラバ氏は「政権側が勝利すれば、我々はベラルーシのIT企業ではいられなくなるだろう」と述べたことがあります。
これに対してハイテクパークの報道官は、ほとんどのIT企業がベラルーシで操業を継続する用意があり、人材の移動は通常の人事異動の範囲内だとコメントしています。
経済省はコメントを差し控えました。
選挙後の暴力に巻き込まれた起業家もいます。
ミンスクに開発チームを持ち、カリフォルニアに本社を置くロボットメーカー、ロズム・ロボティクス社を創業したベラルーシ出身のミハイル・チュプリンスキ氏は治安部隊に力ずくで拘束されたと証言しています。
ウォール・ストリート・ジャーナルが確認した診断書にはチュプリンスキ氏が脳振とうを起こしたと記されていました。
チュプリンスキ氏はルカシェンコ政権が継続した場合、会社をいかにして速やかに移転させるかについて弁護士と相談していると述べています。
「外を安全に歩きたい。これはもはやビジネスの問題ではない」とチュプリンスキ氏は語りました。
金融犯罪に問われた人さえいます。
パンダドック社によると、当局は今月、同社のミンスクオフィスを強制捜査し、現地の責任者を拘束しました。
ベラルーシの捜査委員会は同社関係者の刑事事件を捜査中であり、社員4人を『詐欺罪』で告発したと発表しました。
パンダドック社は疑惑を完全否定し、当局の暴力によって負傷した多くのデモ隊の犠牲者を支援するために、同社の創業者が資金を集めたことに対する「完全なる威圧行為」であると非難しました。
パンダドック社のCEOミキタ・ミカド氏は「唖然としました。もはや一線を超えています」と述べ、今回の出来事は事態が鎮静化し、変化が起きない限り「現政権下ではベラルーシのテクノロジー企業に未来がないことは明らかだと言えます」と指摘しました。
ABCニュースは、ルカシェンコ大統領が大統領官邸で行われた演説で「米国とその同盟国の『バカ共』が国を脅かす目的で反政府運動を影から扇動している」と述べたと伝えました。
発言の根拠は何も示されておらず、ミンスクの米国大使館からのコメントも得られていません。
彼は襲撃を恐れて移動はもっぱら専用ヘリを利用しており、彼のボディーガードたちはカラシニコフ軍用狙撃銃を常に携帯しています。
彼は最悪の意味で『本物』です。