火曜日の夜、トランプ大統領が民主党の候補者であるジョー・バイデンを絶え間なく攻撃し、妨害し、侮辱したため、大統領選挙討論会は異例ともいえる悲惨な状況に陥りました。
秋の選挙キャンペーンカレンダーで最も注目されていた政治イベントは、侮辱と妨害と混乱と高揚と熱気とがミックスされた制御不可能な光景になりました。
トランプの感動詞と嘲笑は、その一部は虚偽であり、バイデンを怒らせるための明らかな挑発であり、司会進行役のクリス・ウォレスが事前に合意された討論規則に従うよう大統領に何度も懇願するほどの猛烈な勢いで捲し立てました。
バイデンは遂に憤慨し、最高裁判所の後任判事を議論するセグメントの冒頭でトランプに「少し黙ってくれませんか?」と尋ねるほどでした。
二人の争いは、パンデミックとそれに関連する景気後退、人種差別問題、山火事などに見られる壊滅的な気候変動の危険性に至るまで、現在この国を震撼させている深刻な危機を収束させるため、彼らの間に実質的な違いを見出すべき討論会を終始圧倒しました 。
二人の男性は、相手の発言を無視し、時には黙示録的な言葉で話しました。
バイデンは、トランプの下で米国は「より弱く、より病気になり、より貧しく、より分裂し、より暴力的に」なったと主張しました。
一方、トランプは、バイデンが選出された場合、米国は「見たこともないような大不況を経験するだろう」と主張しました。
このキャンペーンの苛酷な性質を象徴するが如く、攻撃は非常に個人的なものでした。
バイデンはトランプを「人種差別主義者」あるいは「アメリカ史上最悪の大統領」と呼びました。
トランプはバイデンを「大学を学年ビリで卒業した男」と呼んで彼の知性を嘲笑しました。
バイデンは「この国の全身を蝕む不公正」を非難し、ホワイトハウス前のラファイエット広場から平和的な抗議者を強制排除するために、連邦政府職員に命じて催涙ガスを使用させたとしてトランプを攻撃しました。
一方、トランプは、バイデンは犯罪に対して弱腰だと反論しました。
「彼は身内の極左勢力が怖くて『法執行』という言葉すら言えないだろう」とトランプは挑発しました。
「もし彼がこの国を経営するようになったとしたら…郊外はなくなってしまうでしょう」
「今は1950年ではありません」とバイデンは反応しました。
「これらすべての犬笛(注1)と人種差別は、もはや機能しません」
バイデンは「彼は人種差別的な憎悪、人種差別的な分裂を生み出すために犬笛を使用した大統領です」と付け加えました。
彼はまた、トランプについて「彼はただの人種差別主義者だ」と述べました。
ケースウエスタンリザーブ大学のクリーブランドキャンパスで開催された90分間のイベントは、トランプとバイデンの間で予定されている3回の討論の最初のものでした。
党派的な主張や個人的な侮辱が多発したため、視聴者は持続的でまとまりのある議論や、原則的な声明を聞く機会を奪われました。
口論は両方の候補者から来ました。
しかし、最も頻繁に、そして最も大声で対戦相手を罵倒して叫ぶことを試みたのはトランプでした。
フォックスニュースのキャスターでもあるウォレス氏は「お互いがより少ない中断で話すことをすれば、有権者はより良いサービスを受けることが出来るでしょう」と述べました。
その直後に彼はトランプの方に顔を向け「大統領、私はあなたにそうするように訴えています」と続けました。
「いや…それなら彼も」トランプはバイデンの方を向いて反論しようと試みました。
「いいえ、率直に言って、あなたの方がもっと邪魔をしています」とウォレスは即答しました。
新型コロナウイルスが国を荒廃させ続けているというテーマに移ったときにも論難が起こりました。
トランプは、自身のパンデミックの管理を精力的に擁護し「数週間も待てばワクチンができる」と約束しました。
彼は、バイデンが大統領であったなら、もっと多くのアメリカ人が死んだであろうと主張しました。
「私たちは(医療用)ガウンを手に入れました。マスクを手に入れました。私たちは人工呼吸器も手に入れました」とトランプは自身の功績を誇りました。
「ジョー、あなたには私たちがやった仕事をすることはできなかったでしょう」
バイデンは、トランプの過去の発言のいくつかを取り上げ、視聴者にトランプは『イースターまでにウイルスがなくなる』と言い、その後は天候が暖かくなる『夏頃にウイルスは魔法のように消えるだろう』と言ったことを思い出させて反論しました。
「ちなみにあなたは『漂白剤で肺を洗浄すればうまくいくかもしれない』とも言いましたよね」とバイデンは冗談めかして言いました。
「それは皮肉で言ったのだ」とトランプは顔を紅潮させて反論しました。
米国の大統領選挙討論会をライブ放送で見ていた日本の視聴者は、この何ら啓発的ではない無秩序な罵声の応酬に耐えなければなりませんでした。
通訳者らは、日本の公共放送NHKのために、リアルタイムでこの混乱を同時通訳するという挑戦的な任務に直面しました。
世界中の通訳者が同様の困難に直面している可能性がありますが、NHKのライブ放送は、与党のリーダーシップに関する議論が果てしなく退屈で、堅実な出来事である日本とは特に対照的でした。
NHKは、おそらく米国の白兵戦を予想して、この機会に3人の通訳を雇ったのかも知れません。
6人のお互いを批判し合う罵声を同時に聞いた日本の視聴者は、チャンネルを変更することを許されるべきです。
「これはもはや議論のようなものではありません。喧嘩を聞いているようなものです」と日本のあるユーザーはツイッターに書き込みました。
「混沌に似た何かを楽しんでいる」と別の人は言いました。
90分間もの間、絶え間なく繰り返される罵倒と中傷の試練を考えると、通訳のスキルと忍耐力に賞賛を表明した人もいました。
「これらの通訳者は金メダルに値します!なんて恐ろしい仕事だ」とオーバーレディというユーザーは書き込みました。
日本の通訳者がトランプ政権下で苦労したのはこれが初めてではありません。
2017年、東京女子大学現代教養学部の教授であり、通訳の第一人者でもある鶴田千佳子氏は、日本のメディアとのインタビューで、トランプ氏のデタラメな発言を理解しようとするのは『まるで悪夢のようだ』と感じたことがあったと語っています。
「彼は自信過剰でありながら発言は非論理的なので、私や通訳の友人は『彼の言葉をそのまま翻訳すると、まるで自分たちが馬鹿に思えてしまう』と冗談を言うことがしばしばあります」と彼女はジャパンタイムズとのインタビューで述べています。
以下の記事を参照しました。
Trump incessantly interrupts and insults Biden as they spar in acrimonious first debate:The Washington Post
Lost in translation: The U.S. presidential debate in Japan:The Washington Post
注1)犬笛:原文ではドックホイッスル。人間には聞こえず犬には聞こえる特殊な音を出す笛。転じて自分の支持者には何も言わないが、反対する者には容赦無く権力を行使する偏向的な政治家を表現した米国の政治用語。差別主義者または独裁者を表す場合もある。
私もNHKのライブ放送を視聴していた一人の日本人ですが、私の乏しい忍耐力はわずか10分ほどで尽きました。
あのカオスな状況に最後まで付き合ったのなら、通訳の方々は追加ボーナスを要求する正当な権利があります。
ご批判をいただくことを承知で率直に言わせて貰えるなら、トランプ氏がこれほどの熱意と執念でパンデミックに対応していたら、アメリカはここまで多くの死者を出さずに済んだであろうという感想を持ちました。
もう一つ。
これが自分と意見を同じくしない者に対する米国人の典型的な討論スタイルなら、米国は自国民に銃の所持を許可するべきではありません。
管理者 黒岩留衣