昨年はNBAでした。
先週はインドでした。
そして今週、中国の人民は韓国のボーイズバンド防弾少年団(BTS)に民族主義的な怒りをぶつけました。
韓国の人気バンドである防弾少年団は朝鮮戦争で戦った米軍ならびに韓国軍に敬意を表したため、中国では彼らに対するボイコットが呼びかけられています。
中国では朝鮮戦争は、中国軍が社会主義の兄弟国である北朝鮮を擁護したため、多大な死者を出した「アメリカによる侵略戦争」として公式に記憶されています。
防弾少年団は最近、米韓関係の発展に寄与した功労が認められ、米国の非営利団体である韓国協会から「ヴァン・フリート賞」を受賞しましたが、受賞後にメンバーの1人、キム・ナムジュン(芸名RM)が行ったスピーチは、中国人民にとって酷く不快な発言と受け止められたようです。
「(米韓)両国が共有する歴史の痛みと、多くの男女の犠牲があったことをずっと覚えておく必要がある」と彼は米国と韓国に言及して述べました。
このコメントは、朝鮮戦争開始70周年を記念して今月、全国的に記念行事を開催している中国で、一部の人々の神経を尖らせることになりました。
1950年から1953年にかけて、中国と北朝鮮は韓国、米国、およびその同盟国と交戦状態にありました。
「中国のファンは毎年あなた方にたくさんのお金を与えている。だが、あなた方は私たちに背を向けて米国に媚を売る」とあるWeiboユーザーは書いています。
「では、あなた方にとって中国のファンとは何なのですか?」
別の人は次のように書いています。
「20万人近くの中国軍が朝鮮戦争で亡くなりました。すべての中国人はこのことを覚えておく必要があります」
その後に続いた出来事は、韓国のグローバルブランドが中国人の反韓感情をこれ以上、刺激しないよう圧力をかけた最新の例でした。
サムスン電子は、BTSブランドの紫色のスマートフォンとイヤフォンを中国の公式ストアやその他のオンラインストアから削除しました。
韓国の現代自動車は、中国のソーシャルメディアからBTSを取り上げた広告を削除しました。
サムスンとヒュンダイの報道官は火曜日にコメントを控え、BTSの管理レーベルであるビッグヒットエンターテインメントもコメントを避けました。
BTSは、唐突にヴェルサーチやギャップ、あるいはマリオットなどの、中国人によって反中国とみなされているブランドの列の最後尾に加わることになりました。
彼らが中国人民の気持ちを傷つけたという主張の後、中国で手痛い消費者の反撃が始まりました。
この大騒ぎは、BTSのメンバーがK-POPヒーローとして愛されている祖国韓国でメディアの感情的な憤慨を引き起こしました。
火曜日、韓国の主要な大衆紙である朝鮮日報のトップページの見出しは「中国は防弾少年団の受賞演説でさえ検閲している」というものでした。
同紙は、2017年のミサイル防衛紛争による経済的影響の既視感を見る思いがするとして、中国のファンのBTSボイコットについて深い懸念を表明しました。
韓国の経済は、最大の輸出国であり、同時に最大の輸入国でもある中国に大きく依存しています。
ソウルの延世大学のソン・テユン経済学教授は「防弾少年団のコメントは確かに政治的なものでしたが、2017年のTHAAD問題に続く中国での韓国に対する激しいボイコットを考えるとき、こうした韓国企業は影響を恐れざるを得なかったのでしょう」と述べました。
カリフォルニア大学アーバイン校の政治学名誉教授であるドロシー・ソリンジャー氏は、反発の一部はおそらく中国が朝鮮戦争で韓国軍のために多大な犠牲を強いられたという見方によるものだろうと述べています。
「中国の指導部は、自国の国民に、韓国とその同盟国の兵士によって、中国軍の兵士に死と苦しみが与えられたと教えています」と彼女は述べました。
「彼が言った言葉は、米韓両国があたかも一方的な被害者であるかのように聞こえたのでしょう」
北朝鮮軍は1950年6月に韓国に侵攻を開始、不意を突かれて押し込まれた韓国は、その後に米国に救援に来るよう促しました。
中国は、国連軍が北朝鮮と中国の国境付近にまで戦線を押し戻した後、その年の10月に参戦しました。
この戦争は、平和条約に取って代わられることはなく、休戦協定で終わりました。
朝鮮半島は公式には、今も交戦状態に置かれたままです。
防弾少年団を巡る大騒動の中で、中国のオンラインで、ある投稿者が自国の歴史を忘れながら海外の流行を追いかけている若者を手厳しく断罪しました。
「あなたの28歳の『お兄さん』は中国人から大金を稼いでいますが、28歳のアンインが朝鮮戦争で非業の死を遂げたことを知っていましたか?」
それは、朝鮮戦争中にアメリカ軍の空爆によって28歳の若さで死亡した中国共産党の創設者・毛沢東の長男である毛岸英(マオ・アンイン)への言及でした。
彼の投稿は猛烈な勢いで拡散していますが、防弾少年団の歌手RMは28歳ではなく26歳です。
延世大学の中国学教授であるジョン・デルリー氏は、BTSのコメントに対して中国でどれほどの草の根レベルの怒りがあったのかは不明であると述べました。
中国の国営タブロイド紙の環球時報は、国民の怒りをかき立てることに一役買ったようだと彼は語っています。
「私が思うに、それはとても無害な声明です」と彼はBTSのスピーチのビデオを見た後に言いました。
「彼の発言はとても一般的で概念的です」
中国政府は論争の範囲をある程度に制限しようとしている兆候が伺えます。
韓国政府は他の西側諸国とは一線を画し、中国の国際政策に対し『沈黙』という名の支持を与えていると認識しているためだと解釈されています。
月曜日の外務省のブリーフィングで防弾少年団について尋ねられた報道官の趙立堅は、予想されたありきたりの回答を披露しました。
「私たちは皆、歴史から教訓を学び、未来を楽しみ、平和を愛する心を保ち、友情を深めるべきだと思います」
どうやら中国政府は、韓国政府による『暗黙の支持』に一定の評価を与えているようです。
そして、北京からの反撃が無期限に続くわけではないことを思い出させるために、中国は先週末にNBAゲームの放送を再開させました。
K-pop boy band BTS faces boycott calls in China over Korean War comment
The Washington Post
さて、韓国といえば日本に対する不買運動「No Japan」運動に精力的に取り組んでいることで知られていますが、今回の出来事は韓国における反日運動とほぼ攻守所を変えたような展開になっています。
韓国の人々が、こうした民族主義的な不買運動が如何に無意味なことか考え直すきっかけにでもなってくれれば、まだ救いの道もありそうに思えるのですが、おそらくは過度な期待というものでしょう。
中国政府は、韓国政府による『暗黙の支持』に一定の評価を与えているとの指摘もあるようなので、そう酷いことになならないと思いたいですね。
それでも逆に、香港や新疆ウイグル自治区で起こっている出来事に曖昧な態度を示すことが自由主義諸国からの不信を招かなければいいのに…と思う程度の心の余裕は、まだ私にも残っているようです。
管理者 黒岩留衣