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アメリカ経済のインフレリスク、一部に警戒論も

by 黒岩留衣
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アメリカのインフレ率は約10年ぶりの低水準にあり、連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%を大きく下回っています。

通常のインフレ率上昇への条件(雇用市場のひっ迫と物価上昇の見込み)を欠いているのは明らかです。

 

ところが、ジョー・バイデン大統領が大型の追加経済対策案を発表して以来、エコノミストの間でも、金融市場でも急ピッチでインフレへの不安が高まり、長期金利は上昇を続けています。

この矛盾の背景には、さまざまに拮抗する力が作用しています。

 

短期的には、豊富な余剰生産能力と数十年にわたる習慣がインフレを抑え込む可能性が高いといえます。

2%未達が数年来続いていることもあり、FRBは目標を若干超えるインフレ率になることを望んでいるようです。

そうすれば、先進諸国に過去10年間つきまとったデフレと経済停滞の亡霊を払いのけられるとの期待感からです。

 

「私などが育った時代に経験した厄介なインフレは遠く過ぎ去り、もう起こりそうにない」

ジェローム・パウエルFRB議長は1月下旬にこのように語っています。

 

ですが長期的には、政治情勢の変化によってインフレが2%を大幅に超えて上昇しやすくなるとみているエコノミストや投資家もいるようです。

彼らの主張によると、FRBが2%を上回るインフレ率を目指していること、バイデン氏の提案した1.9兆ドル(約200兆円)規模の経済対策、それに人種間の経済格差縮小などの新たな目標が、政策担当者のインフレに対する優先度を低下させているということです。

 

「いま支配的な時代精神は、インフレを容認し、それを熱心に求めさえするものだ」

ビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領の助言役を務めたハーバード大学の経済学者ラリー・サマーズ氏はこう述べています。

同氏によるとインフレ期待が劇的に変化し、無秩序なドル安につながるリスクは、1970年代以降で最大だということです。

 

新型コロナウイルスの影響で物価を取り巻く状況は混乱しています。

昨春に世界経済が停止したことでガソリン価格や宿泊料金、航空運賃が急落しました。

消費者物価指数(CPI)の12カ月の変化率から算出するインフレ率は2020年2月の2.3%から今年1月には1.4%まで低下しています。

変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアインフレ率も1.4%と、2011年以降の最低水準付近となりました。

 

ジェローム・パウエルFRB議長

マイナスだった昨春の値が12カ月間の計算枠から外れ、原油価格が反発すれば、自動的にインフレ率は上昇するでしょう。

同時に、ワクチン接種を終えた顧客が戻ってくれば、企業は価格決定力を再び握るかもしれません。

ウォール・ストリート・ジャーナルが実施した調査によると、エコノミストはインフレ率について、4-6月期に2.75%まで上昇し、その後再び低下するとみているとの結果が出ました。

経済調査会社マクロポリシー・パースペクティブズを率いるエコノミストのジュリア・コロナド氏は、コアインフレ率が年末には1.2%まで低下すると予想。

CPIの最大部分を占める家賃が失業によって押し下げられるためだとしています。

 

FRBの2%目標は、個人消費支出(PCE)価格指数という別のインフレ指標に基づいています。

PCEは通常はCPIを下回りますが、足元では1.5%とCPIを上回っています。

 

コロナ大流行の一時的な影響は、インフレ率の方向性に影響を与えないとみられます。

通常、インフレ率を押し上げるのは経済の成長余地の大きさだからです。

現在休業状態にある会社や失業者、さらには物価や賃金設定を左右するインフレ期待などが、今後のインフレ率の低下を示唆していると言えるでしょう。

 

市場もFRBも大半のエコノミストも、バイデン氏の経済対策がインフレ率を有意に押し上げ、FRBの目標を超えるとは考えていないようです。

例えば、財政支援策が来年終了すれば、消費押し上げ効果が消え、物価上昇圧力が弱まるとの見方があります。

ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、エコノミストは2023年末のCPIを2.2%と予想しています。

 

ですが一部の有力エコノミストの意見は異なるものです。

経済対策の規模があまりにも大きく、米国の潜在GDPの合理的予測を超越し、FRBが望む以上にインフレが急加速する可能性があるというのです。

バイデン氏を動機づけた要因の一つは、オバマ政権が2009年に実施した8310億ドルの景気刺激策の規模が小さすぎたという民主党の信念から導かれています。

当時、国家経済会議(NEC)委員長として計画策定に関わったサマーズ氏は、実質GDPと潜在GDPの差に対して約半分の規模しかなかったと認めています。

一方、バイデン氏の計画はGDPギャップの約3倍にも相当するものです。

サマーズ氏はこれを「完全に前例のない領域」だと話しています。

 

多くの予測では、支出がソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)の制約を受けるため、バイデン氏の経済対策の1ドルが産出するGDPは1ドル未満、つまり乗数は1に満たないと想定しているようです。

しかし、オリビエ・ブランシャール元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストは、景気刺激策は低所得者層に有利に働くため、乗数はもっと大きくなる可能性があると話しています。

同氏は昨年12月に成立した9000億ドルの経済対策や1.6兆ドルの家計貯蓄もこれに加わるだろうと指摘しています。

 

 

The Wall Street Journal:2021年3月5日

原題:Is Inflation a Risk? Not Now, but Some See Danger Ahead

引用先:https://www.wsj.com/articles/is-inflation-a-risk-not-now-but-some-see-danger-ahead-11614614962

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