Home ワシントンポスト イスラエルとハマスの停戦合意、勝者は誰だ?

イスラエルとハマスの停戦合意、勝者は誰だ?

by 黒岩留衣
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金曜日の夜明け過ぎ、イスラエルとハマスの過激派の間で停戦が行われました。
これにより、今後の注目は11日間の紛争から、ガザでの悲惨な人道的状況とエルサレムで予想される政治的崩壊を含む紛争処理に移りました。

 

支援機関によると、バイデン大統領を含む国際的な指導者たちは、停戦合意のニュースを歓迎し、ハマスを狙ったイスラエルの空爆が電気や水道システムに大きな損害を与えたガザ地区での復興努力への支援を約束しました。

 

しかし、紛争によってベンヤミン・ネタニヤフ首相の政権維持の脆弱性が潜在的に加速したイスラエルでは、ネタニヤフ首相が連立を形成するために依存せざるをえない極右の政治家や、彼の政治的基盤を構成するイスラエル南部の多くの住民が今回の停戦を厳しく非難しています。

 

最新の暴力の連鎖中にイスラエルに向けて4,000発以上のロケットを発射したハマスは「停戦合意が損なわれれば、我々は戦闘を続ける準備ができている」と警告しました。
「ネタニヤフと全世界は、我々の指が引き金にかかっていることを知るべきであり、我々は交戦能力を成長させ続けるであろう」と過激派グループの上級メンバーであるエザット・エル・レシク氏はロイター通信に語りました。

 

木曜日の夜の演説において、バイデン大統領はガザ地区への人道援助を約束しました。
支援機関によれば、そこでは人道の危機が醸造されていると言います。
イスラエルは紛争のほとんどの間、ガザへの検問所を閉鎖し続けており、最近では医薬品や救援隊員を運ぶトラックが引き返えさざるを得ませんでした。

 

バイデン大統領は、援助はパレスチナ自治政府と「ハマスが単に軍事兵器を補充することを許さない方法で」調整されるだろうと述べました。
米国はハマスをテロリストグループと見なし、直接の接触を避けています。

 

バイデン 大統領は月曜日に停戦を呼びかけた後、共和党から厳しい批判を集めましたが、エジプト主導の停戦交渉における彼の果たした役割は、金曜日の初めのツイートで、エジプトのアブデル・ファタアル・シシ大統領によって賞賛をうけました。
国連の中東和平プロセス特使であるトル・ウェネスランド氏は、交渉に関与したエジプトとカタールに感謝の意を示し「これによりパレスチナ建設の作業を開始できる」と強調しました。

 

「これは、集合的で、且つ統一された行動の力です。これは、正当なる理由のために、すべての人、すべての国が一緒に努力するということです」とパキスタンのシャー・マフムード・クレシ外相はツイートしました。
「この停戦がパレスチナの平和への第一歩となりますように」

 

国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、イスラエルとパレスチナの指導者たちに「紛争の根本原因に対処するための真剣な対話を開始するよう」促しました。
しかし、停戦協定の条件がこれらの原因のいずれかに触れているかどうかは不明なままです。

 

パレスチナの外交官であるリアード・アル・マルキ氏は、停戦は歓迎されたが、暴力を引き起こした「核心的問題」に対処しなかったため「十分ではない」と述べたとAP通信が報じました。
イスラエル当局は、停戦協定は軍事作戦の即時停止のみを要求していると述べ、彼らの主張を否定し、この協定は「相互かつ無条件の停戦」を伴うとを強調しました。

 

しかし、ハマスの当局者は、ヒズボラのテレビチャンネルでイスラエルから譲歩を勝ち取ったと主張しています。
金曜日の朝に停戦が発効してからわずか数分後、別のハマス当局者は「勝利」を宣言しました。
「これは勝利です」とハマス政治局の上級メンバーであるカリル・アル・ハイヤ氏はガザの何千人もの群衆に向かって宣言しました。

午前2時、ガザの住民はテラスから歓声を上げました。
お祝いの銃声が薄暗い地域で鳴り響き、砲弾によって穿たれたクレーターまみれの通りを勇敢に走る車からはいくつかのホーンが鳴らされました。
ガザ市周辺のモスクからは神への賛美が鳴り響きました。
ガザの住民たちは、携帯電話の光を掲げて、ビーチに沿ってパレードしました。

 

夜明けが近づく頃、車の往来と露天商がガザの通りに戻りました。
自治体に雇われた労働者は、がれきの撤去と道路の開通を始めました。
国連パレスチナ難民救済事業局が運営する学校や友人や親戚の家での戦闘を乗り越えた数万人のガザ市民が戻り始めました。

 

「我々は、痛み、傷、破壊、殉教を乗り越えて、勝利を喜ぶ権利があります」とハマスの指導者アル・ハイヤ氏は言いました。
「我々は破壊された家を再建し、笑顔を取り戻し、遺族に希望を分け与えるでしょう」

 

ヨルダン川西岸の都市、ナブルス、ジェニン、ラマッラ、ヘブロンでも祝賀会が開かれました。
花火と車のホーンが東エルサレム中に響き渡っています。

 

一方、イスラエル国防軍は、200時間の砲撃を含む彼らの戦争キャンペーンは、ハマスの戦闘能力を大幅に低下させるという当初の目標を『ほぼ達成した』と述べました。
「ガザ地区全体の戦争トンネルとイスラエルまで貫通した戦争トンネルの破壊は戦略的大成果であり、彼らのロケットの生産と開発システム、無人航空機、海軍艦艇の破壊も同様でした」とイスラエルの新聞でラン・ベン・イシャイ氏が書いています。

 

「しかし—そしてこれはとても大きなことですが—イスラエル国防軍はハマスのロケットとミサイル発射システムを破壊することができませんでした」
「ガザのテロ組織の戦略核兵器の多くはまだ使用可能であり、ハマスと過激派グループ『イスラム聖戦』がイスラエルを脅かし、私たちの前でテロのバランスを維持することを依然として可能にしています」

 

彼は、戦闘から得られたハマスに対する抑止力は、その構成が不明のままである次期イスラエル政府によって採用された政策に依存するだろうと付け加えました。
停戦は、ネタニヤフ首相の政党連合や競争相手のいくつかを含むイスラエルの右翼から激しい批判を集めました。

 

極右のユダヤ人権力党の党首であるイタマール・ベン・グビル氏は、停戦は「恥ずべきこと」であり「テロへの降伏」であるとツイートしました。
ネタニヤフ政権に反対する小さな党を率いるギドン・サール氏は、停戦を「恥ずかしい」と呼びました。

 

また、ネタニヤフのリクード党に所属するガディ・イェヴァルカン氏は、2014年にハマスによって捕らえられた兵士の遺体が返還されないままで停戦し、且つ2人のイスラエル市民がグループに拘束されたのは「テロに対する報酬」だとツイートしました。

 

一方、アメリカのバイデン大統領はネタニヤフ首相と停戦まで4回にわたって電話会談を行いました。
元々、中東和平の優先度が低かったバイデン大統領ですが、戦闘が激化しても対応は変わらず鈍いままでした。

 

国連安保理で計4回開催された会合では、停戦を求める声明の発表が、米国の反対によって出すことに失敗しました。
バイデン大統領は、これまで国際協調や人権を重視すると強調してきましたが、国連の場での国際協調を軽視するような姿勢には非難の声が上がっています。
さらに、こうしたバイデン氏の停戦調停に消極的で、イスラエルに配慮しすぎる対応には、身内である民主党からも批判が噴出しています。

 

特にイスラエルに対する7億3500万ドルもの武器売却について、リベラルな議員を中心に反対する意見が強まっています。
大統領選挙の党候補指名争いで、バイデン氏と最後まで戦ったサンダース上院議員は「米国の兵器がガザを破壊し、女性や子供を殺害している時、新たな兵器売却を認めるわけにはいかない」として、兵器の売却差し止め決議を準備中だと言われています。

 

バイデン大統領のイスラエルに甘い姿勢に異議を唱えているのはリベラル系の議員だけではなく、これまでイスラエルの立場を強く擁護してきたシューマー上院院内総務やメネンデス上院外交委員長らも疑問を呈するようになりました。
こうした党内外からの批判を受けたバイデン大統領は19日のネタニヤフ首相との電話会談で「停戦に向けた大幅な緊張緩和を今日中に期待する」と期限を切って事実上の『最後通告』を突き付けるに至りました。

 

翌日、ネタニヤフ首相がやっと停戦を受け入れ、バイデン大統領はギリギリで面目を保ったと言えるでしょう。
しかし、大統領に対する国内外の懐疑論の高まりはバイデン氏のイメージを大きく傷つけることになったのは間違いありません。

 

こんな中、最大の勝ち組は調停をまとめたエジプトのシシ大統領だったかもしれません。
かつてのアラブの盟主も最近、影が薄くなっていましたが、これをきっかけに発言力を増すかもしれません。

 

 

The Washington Post:2021年5月21日

原題:As fragile cease-fire holds, eyes turn to suffering in Gaza and Netanyahu’s political future
引用:https://www.washingtonpost.com/world/2021/05/21/israel-gaza-conflict-latest-updates/


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