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目に余る中国の恫喝外交

by 黒岩留衣
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西側諸国の中でオーストラリアは、軍事・経済・外交面で中国の影響力を最も強く受けている国でしょう。

このため両国の関係は、中国共産党が他国をどう扱いたいと考えているのか見極めるための指標として、皮肉にも注目を集める存在になっています。

 

中国が、同国のニュース番組のアンカー役を務めていたオーストラリア国籍の成蕾(チェン・レイ)氏を何の理由説明もないまま拘束したことは、中国の対豪威圧姿勢の最新例となりました。

中国国内で勤務したり、旅行したりする外国人が身の危険にさらされていることが、次第に明白になってきています。

 

中国系オーストラリア人作家、ヤン・ヘンジュン氏は、曖昧な「スパイ」容疑で昨年から拘束されたまま未だに釈放されていません。

そして、カナダ人のマイケル・コブリグとマイケル・スパバ両氏が2018年から中国で拘束されていることも忘れてはならないことです。

 

中国は、対イラン制裁に違反したとしてカナダで拘束されている華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟最高財務責任者の米国への身柄引き渡しを阻止するため、カナダ政府に圧力をかけており、2人のカナダ人はそのための人質になっていると見做されています。

 

豪州は今春以降、新型コロナウイルスの発生源に関する独立した調査を支持する動きをみせたとして、中国政府の怒りの攻撃に直面しています。

ある国営メディアの代表者は豪州が「中国の靴底に貼り付いたガム」のようだと侮蔑する発言をしました。

中国は5月に豪州産の大麦に信じがたいほどの関税を課し、牛肉の輸入を制限したほか、新たに豪州からの輸出ワインに関する新たな調査を開始しました。

これは貿易面の新たな打撃になる可能性があります。

こうした関税措置や拘束措置を連発しているのは、中国共産党を不快にする立場をとる国があろうものなら、中国共産党政府はその強大な力を存分に行使して徹底的に報復を行うという明白なメッセージです。

 

習近平国家主席を描いた看板の前を横切る人民解放軍兵士

 

中国はチェコにも脅しをかけ、ビジネス代表団を率いて台湾を訪問した同国の上院議長に対して「高い代償を払う」ことになると恫喝しました。

先週、チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が90人の代表団を率いて台湾を訪れたことを受け、中国外務省はこの訪問を非難し、王毅外相はビストルチル氏の『向こう見ずな行為』について『高い代償』を支払うことになると警告しました。

 

チェコのビストルチル上院議員

ビストルチル氏が台湾の上院で行った演説は確かに挑発的でした。

彼は中国語で『私は台湾市民だ』と言ったのです。

これは東西冷戦のさなかにジョン・F・ケネディ元米大統領がベルリンで行った有名な演説『私はベルリン市民だ』を意識的に模倣したものです。

そして台湾は、中国が侵略したがっている自治の島です。

香港、台湾、新型コロナウイルス、人権、そして南シナ海などの問題に関し、中国は威圧的外交により、相手国の意志を捻じ曲げることが可能だと考えているようしか思えない状況が続いています。

 

各国政府のほか、様々なビジネス分野に対し、中国の影響力が同国の経済面での台頭によって一層強まっているのは確かなことです。

しかし、世界は中国共産党の隷属強要により、太平洋地域において同国が支配的勢力となるのを容認するリスクに気づき始めています。

中国の指導者たちは、国際社会が中国の台頭を不当に抑えたがっていると国民に信じ込ませることには成功したようです。

しかし、彼らはオーストラリアのような諸外国を威圧することによって国際社会から獲得した、お世辞にも好ましいとは言えない評価を更にリスクに晒していることには気がついていないようです。

 

ドナルド・トランプ大統領の外交政策について専門家が抱く最大の懸念の1つは、ドイツのような主要同盟国を遠ざけることで、米国から欧州を引き離す機会を中国に提供してしまうのではないかというものでした。

しかし、2016年以降、大西洋を挟む国々の間で緊張が高まり、欧州主要国の世論がトランプ大統領に真っ向から反対する方向に転じる中、中国がこの機会を有効活用していることを示す兆候はほとんどありません。

それどころか、中国は米国と欧州の関係を絶とうとしているのではなく、むしろ強めているようにさえ見えます。

中国は、さらに一層の努力をもって、欧州から、あるいは世界から、不信と不人気という名のコインをかき集めようとしているようにしか見えません。

 

欧州主要国と中国との隔たりは、先週、顕著に大きくなりました。

フランスは、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に依存するのではなく、欧州自らが第5世代通信網の技術開発に取り組むよう求めました。

ドイツは、中国への依存を軽減する「インド太平洋」戦略を採択しました。

そして仏独のいずれの当局者も、中国のチェコに対する恫喝に怒りの反応をみせています。

 

アンゲラ・メルケル独首相

これらの出来事は幾つかの結論を示唆しています。

1つには、米欧同盟は、多くの国際的結び付きをつくりだす『共通の敵』という認識の強い力によって引き続き結びついているということです。

メルケル氏はトランプ氏を好んではいないし、その逆もまた真ですが、両者とも最優先の共通利益を認識するくらいのことはまだできるということです。

米政府がより円滑な外交を、あるいは独政府がより柔軟な外交姿勢を示すことができれば、米欧協力に向けた道を進むことを少しは容易にするかもしれません。

ですが、少なくとも現在の外交上の配慮は米欧同盟を団結させるまでには至っていないようです。

 

2つには、われわれの敵は10フィート(約3メートル)もある巨人ではないということです。

独裁政権は、自国民を威圧し、どう喝することにあまりにも慣れきっているため、ひとたび海外に視点を移した場合、そうしたやり方がいかに逆効果となるかを理解できないという欠点があるように見受けられます。

独裁国家は自国内では体制批判者たちを恫喝によって容易に屈服させてしまえる一方で、国際社会はそれほど簡単に服従することはありえません。

 

最後の点は、中国が現時点では、国際社会からの批判的制約をあまり深刻に受け止めていないのではないかという、幾分気の滅入る推察です。

米国の現状は、コロナウイルスによるパンデミックに対する対処に加え、大統領選をめぐる政局と、国内の人種的2極分化への対応に忙殺されており、欧州連合は依然として分断され、動きの鈍い状態にあります。

ゆえに中国政府は自分たちの無謀な行動がもたらす結果を、さして恐れていないように思われるのです。

したがって、2020年の残りの期間中に、彼らが袖口に隠し持った望ましからざるナイフが幾つか出てきたとしても驚くには値しません。

 


以下の記事を参照し、再編成しました

Russia and China Wield Dull Wedges:WSJ
Beijing’s Bullying Escalates Down Under:WSJ


日本のネットユーザーも含めて、ジョー・バイデン候補が大統領になった場合、中国に対して弱腰とも受け取れる融和的な政策を選択するのではないかとの懸念があるようです。

おそらくは彼がバラク・オバマ前政権で副大統領を務めたことに由来する認識でしょうが、民主党にせよ共和党にせよ、中国は『不公正な競争者』であるとの認識は共有するだろうと思います。

ですが「中国は多くの間違いを犯し、同時にその償いの機会を免れてきた」との認識を共有しえたとしても、中国という名の罪人に如何なる罪名を記するべきかという点においては両陣営に判断の差が出る可能性はあります。

いずれにせよ、中国に対するアメリカの強硬な姿勢が、ドナルド・トランプという人物の個性に由来するものであり、彼の選挙キャンペーンの一部に過ぎないと判断するのであれば、それはおそらく『間違い』であろうと指摘することはできます。

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