マーケットはしばしば政治を読み違えるものですが、2020年の大統領選挙の想定された3つのシナリオのすべて(共和党が勝つ、民主党が勝つ、そして長期にわたる法廷闘争)が一晩で織り込まれるなどということはめったにあることではありません。
昨夜、有権者が再び世論調査を嘲笑したので、まさにそれが実現しました。
ある意味では、市場は本来あるべきことを実行しました。
勝利の確率が変化するにつれて、株価は予想されるべき方向に反応しました。
ああ…マーケットのなんと効率的なことでしょう!
それでも、値動きの規模からうかがえることは、民主党のジョー・バイデン候補の勝利がほぼ確実と見られた見解から、トランプ大統領の第2期の獲得がほぼ確実であるとの見解へと先物トレーダーの心理の激しい変動を示唆しています。
これぞ市場の狂気というべきものです。
火曜日の夜に起こった出来事は、オランダの東インド会社が唯一の株式の賭博場であった頃から、変わることなく市場が投資家に投げかけてきた伝統的な課題を浮き彫りにしたといえます。
それは、市場は正しい方向に動きますが、行き過ぎてしまうことが多々あるということです。
専門用語でいえば「市場にはモメンタムがあり、それゆえ投資家を惑わせる」ということです。
情報が不足しているときは尚更そうです。
これは、昨夜に限ったことではなく、特に今年のマーケットで見られる問題です。
昨夜に起こった出来事を要約してみましょう。
世論調査が終了した時点で、少なくともトレーダーの心理の中で、バイデンへの傾倒がありました。
米10年債利回りは0.94%と、新型コロナウイルスの感染が拡大した3月以来の水準に急上昇しました。
S&P500種指数先物は大幅高となりましたが、ナスダック先物はこれに追随しませんでした。
ホワイトハウスと議会の民主党のスイープへの賭けは、財政支出と債務拡大が見込まれることから、米国債利回りが押し上げられ、伝統的な工業株や消費関連株に追い風となりました。
成長を追求する投資家たちにとって、テクノロジー株に代わる投資先が現れた恰好になりました。
ところが、フロリダ州がトランプ氏に軍配を挙げたとき、事態は一変しました。
民主党の「ブルーウェーヴ」がせいぜい「青いさざなみ」であることが明らかになったので、トレーダーはコースを逆転させました。
ナスダック先物が4.8%も急上昇しました。
一方で、国債利回りは急激に低下しました。
大規模な財政出動はなさそうだとの見方から、典型的な景気敏感株への追い風が止む一方、敵対的な議会もなくなるという思惑で、成長株の中ではハイテク株が唯一の選択肢となったわけです。
その後、市場は再び揺れ動き、米国債利回りは0.77%に低下し、株価指数先物は上げ幅を失いました。
ホワイトハウスを誰が支配するかがわかるまで、ミシガン州とペンシルベニア州の集計を長い間待つ可能性が高まったためです。
法的紛争のリスクは、リスクオフの賭けへの移行を正当化しました。
共和党が上院を保持する可能性が高いということは、財政刺激策の実現見通しが後退し、一段と長期にわたる低金利と連邦準備制度理事会(FRB)の国債買い入れといった金融刺激策の出番が待たれることを意味しました。
今も変動は続いていますが、こうした出来事から教訓を得ることはできます。
それは、市場は正しい方向性を向くと同時に、行き過ぎてしまう可能性があるということです。
それらは一種の効率性ですが、ある種の狂気でもあります。
それは市場が方向性を誤っているということではありません。
民主党が圧勝すれば、米国債利回りの上昇が正当化され、共和党が上院を握れば利回り低下が正当化されます。
同様に、新型コロナ対策のロックダウンはハイテク株が値上がりする根拠となりました。
問題は単に、利回りがどこまで上昇すべきか、あるいはハイテク株がどこまで値上がりすべきかです。
情報不足の中では、この夏のハイテク株で見られたように、モメンタムがファンダメンタルズから価格を遠ざける可能性もあります。
お互いを見回している投資家たちは、流れに乗ることができます。
そして時には、それ故に流れに押し出される可能性もあるわけです。
What Markets Are Telling Us as Election Results Roll In
The Wall Street Journal
速報に踊らされたのは私も同じです。
振り返れば恥ずかしいほど動揺しました。
ところで本文にもありますように、上院は共和党が依然として多数派であり続ける公算が大きいようです。
これはバイデン新大統領が誕生した場合、徹底して足を引っ張られる事を意味しています。
似たような状況はオバマ政権の最後の2年間にもありましたが、今回は状況が違います。
バイデン氏は船出と同時に足を引きずる羽目になりそうです。
例えばホワイトハウスの高官達の任命も上院での承認を必要とします。
最高裁判所の判事に欠員が生まれた場合も同様です。
マコーネル院内総務は自分自身の過去の行いを一切自己反省することなく、抵抗するでしょう。
新大統領が彼らを宥めるためには代償を払う必要に迫られ、それはおそらく1ペニーよりも高価でしょう。
そうした停滞は当然にマーケットにも影響するであろう事を、投資家のみなさんは覚えていてください。
管理者 黒岩留衣