香港はかつて、自由を求めてベトナムや中国本土からボートで脱出を図った人々の避難場所でした。
しかし今や、香港市民が過去の同様の手段で香港からの脱出を図っています。
そしてこれら香港市民のすべてが安全に脱出できるわけではありません。
19歳のコック・ツルンは、自分が追従している少女に「もうこれ以上、彼の悪い冗談に付き合う必要はない」と語りました。
17歳のチェン・ツホは父親に「家に帰る前に釣りに行くよ」と言いました。
29歳のリー・ツァインは家族と食事を共にし、何もかもがおかしいかのようにケラケラと笑っていたそうです。
これは、スピードボートで台湾に逃げようとして、中国当局によって海上で拿捕された12人の香港の活動家の中にいた3人から、家族や友人が聞いた最後の言葉でした。
彼らの拘留から3週間以上が経った今、彼らの家族たちは、拘束された家族・友人の「健康、安全、精神状態」を危惧しています。
彼らは隔離され、弁護士への接見もないまま苦しんでいます。
彼らは台湾に向かおうとしていました。
活動家たちは全員、香港の民主化運動に関与した容疑で逮捕されていましたが、台湾で政治的迫害のない新しい生活を始めることを期待して、街から逃れた最新の人々でした。
このボートピープルのうち何人かは、民主主義運動や反政府抗議活動への関与をめぐって、重罪に問われています。
先週末、数人の被拘禁者の家族が記者会見を開き、香港政府に愛する人の身の安全を確保するよう呼びかけました。
2人の民主主義議員と著名な地元の活動家が同行した家族たちは、身元を隠すために、サングラス、サージカルマスク、帽子、あるいはフード付きのウインドブレーカーを着用しました。
「夫が投獄され、無精ひげで汚れた顔で、じっと私を見ているという悪夢を何度もみました」とウォン・ワイインの妻であると自認した29歳の女性が北京語で話しました。
「10年、20年、あるいは一生かかるかも知れませんが、それでも私は夫の帰宅を待ち続けます」と彼女は語りました。
「私は、絶対に夫をあきらめません」
ティーンエイジャーが中国本土で裁判にかけられなければならない状況にあることを認めたコック・ツルンの弁護士は、状況はますます絶望的になっていると述べました。
「私たちの要求は非常に控えめです」と身の安全を恐れたため、匿名を条件に話した弁護士は言いました。
「私たちは彼が、彼の家族や弁護士と話せるようになること。そして彼が安全で怪我をせず、非人道的な扱いを受けないことを要求するだけです」
少なくともこのうちの1人、民主主義支持者で香港の活動家アンディ・リー氏は、8月に国家安全維持法違反の容疑で逮捕され、有罪となれば終身刑になる可能性があります。
香港は長らく独立した司法制度を自ら誇りにしてきましたが、今後、中国と同様に香港の法廷で起きることも中国共産党が支配するだろうと彼らが懸念することは十分に理解できることです。
彼らの運命については、中国本土で拘束されているということを除き、ほとんど何もわかっていません。
昨年の後半以降、パスポートの押収等により通常の手段で彼らが都市から去ることが妨げられたため、2019年の蜂起で逮捕され、その後保釈された一部の香港の抗議者は船で逃げることを求めました。
香港警察は、12人のうち11人が裁判所命令により市を離れることを禁じられており、放火の試み、攻撃的武器の所持、暴動、爆発物の所持などの事件に関与していた疑いがあると述べました。
中国共産党傘下の英字紙チャイナ・デーリーは8月31日の社説で「香港の法律違反者たちは、台湾や別の場所に逃げ場所を求めることで司法の手を逃れられるとの幻想を放棄すべきである」と指摘しました。
2019年6月に民主化反対の抗議行動が始まって以来、約10,000人が逮捕されました。
中国政府は、今回の不幸な逃亡者たちを「恐ろしい見せしめ」としたいのかもしれません。
中国本土の人権派弁護士は、拘留された香港人に接見することを試みましたが、実現していません。
四川省の弁護士であるルー・シーウェイ氏は、香港の被拘留者の家族からの依頼を受け、3回も被拘束者に接見を試みたと述べました。
彼は、その度に拒絶され、訴訟を起こすことに対して警告され、挙句は四川省の司法省によって召喚されたと述べました。
深圳の塩田拘置所が彼の接見を阻止し続けるなら、彼は今回のケースを広東省政府または北京最高裁判所などの、より高いレベルの司法の場に持ち込む用意があると発言しました。
「それは問題はないはずだ」と彼は言いました。
その直後、ルー弁護士は突然に消息不明になりました。
彼への電話には応答がなく、彼のブログページは先週から何も更新されていません。
多くの香港人は、中国共産党が香港への締め付けを強めるなか、今回のことが今後起こることの前触れになることを恐れています。
台湾は最近、「自身の安全と自由が政治的な理由で、差し迫った脅威にさらされている」香港の亡命者を支援するためのオフィスを開設したほか、英国のボリス・ジョンソン首相は、同国の元植民地の何百万人もの住民に対し、市民権獲得への道を開くことを約束しました。
移住専門の弁護士、海外の不動産営業担当者や引っ越し業者によると、香港を離れようとする人たちからの関心が急速に高まっているといいます。
チャイナ・デーリーは「香港の犯罪者が自らの行為の結果から逃れることを公然と勧めた」として台湾指導部を批判しました。
中国外務省の汪文斌報道官は、香港人に対して発給された英国海外市民パスポートを、中国が「有効な渡航書類として認めない」可能性があると述べました。
香港脱出を図ったボートピープルは、命を賭けて逃亡しようとした人々の最初の例となりましたが、彼らが最後の例になることはおそらくないでしょう。
以下の記事を参照し、再編集しました。
Hong Kong’s Boat People:ウォールストリートジャーナル
Hong Kongers who fled by sea are held without legal access in China, families say:ワシントンポスト
Hong Kong was once a safe haven from China. Now activists are fleeing the city by boat to Taiwan:CNN
この夏、香港の2隻のボートが台湾への脱出に成功したとの未確認情報がありますが、台湾政府はそのことについて否定も肯定もしていません。
一部のメディアの報道によれば、今回の脱出劇は、当局の監視と盗聴により、計画が事前に漏れていた可能性が指摘されています。
この報道が事実なら、それは余りにも息苦しく、私にはとても受容できそうもありません。
ましてや、被拘束者との接見を求めただけの弁護士が唐突に消息不明になるなど、実態は中国本土と何ら変わらず、改めて恐怖を感じます。