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ポンペイオが模索するアジア版NATOの行方

by 黒岩留衣
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火曜日、マイク・ポンペイオ国務長官は日本、オーストラリア、インドの各国外相と会い、中国の拡張主義の高まりに対抗するため民主主義同盟の強化を訴えました。

 

中国は習近平国家主席の下でますます積極的な外交政策を追求しており、トランプ政権は中国共産党の支配を米国の国益に対するあからさまな脅威として特定しています。

ポンペイオ氏は日本の日経新聞の取材に対し、こうした傾向によりアジア太平洋地域の民主主義国家はより緊密になるべきで、『クワッド』の名で知られる4つの地域大国(オーストラリア、日本、インド、米国)のグループ間の結束を強化して安全保障体制を構築したいと語りました。

彼は、中国共産党が提起した課題に立ち向かうための「中国包囲網」の形成を望んでいると述べました。

 

ポンペオは、中国の横暴、汚職、強制について不満を述べ、世界の選択は「自由主義と専制主義の狭間」にあると述べました。

彼は「これは単に米国と中国の間の問題ではありません」と日本の公共放送NHKに語りました。

「これは世界の魂(the soul of the world)の問題です」

「これは、国際社会が…国際法ベースの国際秩序システムで運営されている世界なのか、それとも中国のような強圧的な全体主義体制によって支配されている世界なのかについての問題です」

 

ポンペイオ長官と菅新首相の顔合わせは笑顔とお辞儀から始まった

 

しかし専門家は、このグループが大西洋横断軍事同盟であるNATOのアジア版に発展する可能性は低いと述べています。

代わりに、ポンペオの日本のカウンターパートである茂木敏充は、2016年に元日本の指導者であった安倍晋三によって提唱され、後にトランプ政権によって採用された「自由で開かれたインド太平洋」として知られるより緩やかな概念を推進しています。

 

この概念は、自由市場、自由貿易、航行の自由、法の支配に焦点を当てており、中国政府を明示的に排除することなく、中国の強制に対する暗黙の防御を提供しています。

茂木外相はポンペオ長官と会談し「日米が国際社会をリードして、自由で開かれたインド太平洋を実現することを期待している」と述べ、日米同盟を「地域の平和と安定の礎である」と評価し、菅義偉新体制の下での継続性を約束しました。

 

ポンペオは、日本の新しい指導者を「強力な善なる力」と表現しました。

彼はまた、合同会談と夕食の前に、オーストラリアのマライズ・ペイン外相とインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカール外相と個別に会談しました。

 

包囲網の形成を警戒している中国政府は『クワッド』民主主義国家群がより緊密に連携するにつれて、懸念と怒りを表明しました。

先月、中国外務省の報道官である王文斌(ワン・ウェンビン)は、「第三国」を標的とし、地域の平和と安定を損なう「排他的枠組み」について不満を述べています。

 

それでも、北京の行動は周辺国の反発を煽っています。

今年、紛争中のインドとの国境に沿って領土を占領しようとするその野心は、インド軍との間で致命的な衝突を引き起こし、多数の中国のインターネットアプリをブロックすることによりインドに報復を促しました。

 

オーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生の経緯について独立した調査を要求した後、中国とオーストラリアの関係は急速に冷却化しました。

日本は、北京が釣魚島と呼んでいる紛争のある島、尖閣諸島に対する領有権の主張をラチェットする(注1)中国の努力についてますます懸念を深めています。

香港での政治的自由に対する中国の抑圧と台湾海峡での軍事活動の強化は、国際社会にその意図に対する警戒心を強めています。

 

台湾の軍事演習風景:AH-1コブラ戦闘ヘリ

 

一方、ポンペイオは、中国がもたらす脅威の高まりに対抗するために、世界的な連合を構築しようとしています。

それはクワッドに新鮮な推進力を与えました。

東京に向けて出発する前に、ポンペイオはこの会議から「いくつかの重要な発表、重要な成果」を得ることを望んでいると述べました。

 

中国のタブロイド紙の環球時報で、中国国際研究所の研究員である張天君(Zhang Tengjun)は、クワッドが軍事同盟化しつつあると警告を発しています。

「四カ国によって構成されるクワッドは、彼らの軍事的および経済的措置はアジア太平洋地域の勢力均衡と国際法に基づく秩序維持を目的としていると主張している」と彼は述べました。

「ところが実際には、クワッドグループは冷戦時代のそれと何ら代わり映えのしないイデオロギー集団であり、彼らの真意は中国に対する封じ込めにある」と述べています。

 

それでも、日本やインドを含むアジア諸国は、中国に明確に反対することを警戒し、対話を好む姿勢を崩していません。

それは、彼らが巨大なアジアの隣人と広範な経済的関係を持っていること、およびワシントンに対して友人としてどれほど信頼できるか疑問に思うことがしばしばあるからです。

 

「米国は第二のNATOを夢見ていますが、クワッドの半分は曖昧です」とテンプル大学日本校のアジア研究研究所所長ジェフ・キングストンは述べています。

しかし、東京の政策研究大学院大学の道下徳成(みちした・なるしげ)副学長は、クワッドは「より深刻で、より具体的になっている」と述べました。

「四カ国のクワッドメンバーの全てが何らかの形で中国に脅迫されていると感じています」

「政治的影響力の拡大、サイバー攻撃、知的財産の盗難、領土問題、そして最も重要なことは、既存の国際秩序と価値観に挑戦し、再形成するという中国のますます明確な意図です」と彼は言いました。

各クワッド参加国は中国との関係を重視している一方で「北京に対して声をあげ、中国にもっと協力的な道を進むよう圧力をかける」方がより効果的に関与できることにも気付いたのだと彼は付け加えました。

 

中国外務省のスポークスマン王文斌は、最近ポンペイオ長官が北京に対して『反中連立政権』を樹立する計画であることに触れ、彼は「ナンセンスな話をしている」と述べました。

王氏は9月29日の記者会見で「彼(ポンペイオ米国務長官)はその日を見ることは決してないだろう」と述べ、続けて「彼の後継者もまた、その日を見ることはないだろう。何故ならば、その日は決して来ないからだ」と語りました。

 

 

Pompeo seeks unity against China’s assertiveness, but don’t expect an Asian NATO

ワシントンポスト東京支局長のサイモン・デニアーの署名記事から引用しました

 

The Washington Post


注1)原文はratchet up:本来は「爪車を締める」という意味。転じて「傲慢で横暴な振る舞いをする」という意味にも使われる。締め上げた状態を元に戻す気がないというニュアンスを含む。
単にratchetという場合は俗語で「自己中心的な人物」「他人を振り回す人物」という意味になる。
ちなみに昨今の米国のネット界隈では類語として「トランピィ」なる新語が登場し、急速に支持を広げているという。


先月中旬、日本の中西宏明・経団連会長はウォールストリートジャーナルとの取材に応じ「日本政府がこれまで中国との関係構築に力を尽くしたことを踏まえ、できる限り仲良くすべきだ」と発言しました。

おそらく他国も同様でしょうが、菅首相にとって財界と政界の思惑の差をいかにして埋めるかが彼の最初の大きな課題となるでしょう。

 

管理者 黒岩留衣

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