米政府が中国政府への情報流出を阻止しようと躍起になっている一方で、ニューヨークの国連事務局は、中国政府と協力して、世界規模の合同データハブを中国国内に構築しようとしています。
この計画では、国連加盟諸各国のデータを収集・分析するための研究センターや、中国の偵察衛星の高度な監視能力を駆使した地理空間情報の研究センターも設けられることになっています。
この計画の目的は、データへの依存度が高まりつつある国連のさまざまなプロジェクトを円滑化、強化することになっています。
この中国と国連の複合組織は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のマスタープラン(基本計画)と一体化される予定です。
同アジェンダは、貧困の根絶、平和と公正の実現など17の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を目指しています。
一方で、必要データの収集で困難に直面した国連は、193の加盟国と傘下の多様な機関、部門、計画を網羅する情報発信能力の向上と基準統一の取り組みに乗り出すことにしました。
世界有数の監視国家である中国は、この計画を喜んで支援することにしました。
ビッグデータ面での中国と国連のパートナーシップに関する合意は、ほぼ完了に近づいているといえます。
中国共産党の最高指導者である習近平国家主席は9月22日、バーチャル形式となった第75回国連年次総会の一般討論演説の中でこの合意を発表した際「国際問題に関して国連が中心的役割を果たすのを支援する」と誇らしげに宣言しました。
続けて彼は「中国は国連の地球規模地理空間情報イノベーションセンターとともに、2030アジェンダの実施促進に向けた持続可能な開発目標のためのビッグデータ国際研究センターを中国が開設する」と述べました。
国連の記録によると、その場所が既に選定済みであることが示唆されています。
中国政府とSDGsの事務局を務める国連経済社会局は、趣意書に署名しました。
同局は国連事務総長の直属ですが、2007年以降は中国人がトップを務めています。
このため、中国と国連を代表して趣意書に署名した当局者は結局は2人とも中国人だったことになります。
地理空間センターは、浙江省徳清県に作られる予定です。
同地には地理空間に関する工業団地があるほか、2018年に国連地理空間情報会議を開催した実績もあります。
ビッグデータ研究センターは、そこから車で1時間もかからない杭州市に作られる予定です。
杭州はハイテク大手アリババグループが本拠を置いている場所でもあります。
アリババの共同創設者であり、元会長の馬雲(ジャック・マー)氏は、メリンダ・ゲイツ氏とともに2018年にアントニオ・グテレス事務総長が立ち上げた「デジタル協力」に関するパネルの共同議長を務めたことがありました。
国連と米中の富豪の関係深化は、世界支配をもくろむ中国共産党の野望に沿うものでした。
中国国家統計局の寧吉喆局長と国連経済社会局の劉振民事務次長は2019年6月に上海で面会しました。
そこで2人は「国連:国家統計局ビッグデータ研究センター」というタイトルの覚書に署名しました。
その目的は「中国の官民セクターと一致協力し」ハイテク分野における中国の手法と専門知識を「最大限に活用する」ことにあります。
この組織は、いとも簡単に中国にとって極めて利用価値のあるグローバル情報収集ネットワークになり得るものです。
既に中国は、習近平の提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」の実現手段の1つとして国連を取り込むことに成功しました。
同構想は、援助と債務累積を絡ませた外交、潜在的な軍事プロジェクトを目論んだ投資、独裁的な手法と影響力の拡大などを意図したものです。
グテレス氏は昨年「一帯一路」構想を、国連のSDGsと「本質的に一体である」と称賛しました。
国連の文書によれば、何十もの国連関連機関が中国の「一帯一路」構想を支援するための合意書に調印しており、その中には世界銀行、国際通貨基金(IMF)など国連の15の全専門機関も含まれています。
これら専門機関のうち4つは現在、中国人のトップによって運営されています。
中国政府は国内においては、ネット検閲システム「グレート・ファイアウォール」経由で国内のインターネット・アクセス状況を管理するハイテク技術を導入しています。
当局が海外向けのプロパガンダを流す場合を除き、フェイスブックやツイッターなど米国のソーシャルメディアの利用を禁止しているわけです。
そして、中国国民を監視し、管理し、検閲するためにデータ情報に基づく技術を頻繁に利用しています。
その影響は今年、新型コロナウイルスの脅威をいち早く世界に発信しようとした李文亮医師に対する口封じ、拘束措置によって浮き彫りになりました。
李医師は武漢市で新型コロナウイルスが流行し始めた早い時期に警鐘を鳴らしましたが、彼自身がコロナウイルスに感染し2月に亡くなりました。
習近平が提唱した国連と中国による地理空間情報、ビッグデータ情報センターは、地形、インフラ施設から人の行動に至るまで、ありとあらゆる全てのものを時間にかかわりなく、全世界規模で明確に描き出すことを可能にするものです。
中国は既に全世界レベルで膨大なデータを独自に収集したり、場合によっては勝手に盗んだりしています。
しかし、国連という合法的な『錦の御旗』を得ることになれば、中国は国連加盟各国からのデータ取得、それらのデータ収集に関する国連の基準や規則への影響力の行使、結果の引き出し、それらを国連のシステムに織り込むことが一層容易になるでしょう。
そして、中国共産党による全世界を対象とする情報支配や技術的独裁の企ても一段と容易になることでしょう。
中国には監視カメラが公式発表で2億台以上あると言われています。
また中国は2020年末までに新たに4億5千万台の監視カメラを追加する計画です
世界で監視カメラが多い20都市のうち18都市までが中国にあります。
ビッグデータを処理するAIネットワークと組み合わせた『天網』と呼ばれる国家規模の監視ネットワークシステムは西側の監視技術を凌駕しているとも言われ、毎秒30億回の照合が可能だと言われています。
また中国公安部は国民の音声・指紋・虹彩・DNAなど他の生体認証のデーターベースも構築しているとされ、警察官のヘルメットや眼鏡、ペンなどにも超小型の監視カメラが埋め込まれていると言われています。
過去にBBCの記者が実験のために自分の顔写真を地元当局に提出した後「逃亡」を図ったところ、警察当局が同記者を「重要指名手配」に指定したわずか7分後に身柄を拘束されたという実話もあります。
BBCの記者は監視カメラの追跡を逃れるために「ドブネズミ」のように裏路地を逃げ回ったが全くの無駄だったと語っています。
管理者 黒岩留衣