トランプ大統領が就任して以来、彼の国家安全保障チームの多くのメンバーは、彼らが米国にとっての最大の脅威と見なしている中国に戦いを挑むことを望んでいました。
現在および元の当局者によると、彼らにとっての最大の障壁とは、3年もの間、彼らとの見解を共有せず、中国との貿易協定の交渉の進展を最優先課題に位置付けたトランプ大統領自身でした。
ある元国家安全保障当局者は「国家安全保障会議(NSC : National Security Council)は『中国といかにして戦いたいのか?希望のリストがあるなら出して欲しい』と大統領に言われた事がある」と政権初期の頃を思い出して語りました。
当時の当局者は、中国が自国の一部と見なしている台湾との関係強化から、中国のIT関連企業の世界的な進出を阻止することまで、数多くの提案がなされましたが、トランプ大統領はほとんど意味のある行動を見なかったと言います。
そして時代は転換しました。
今年3月以来、トランプ氏は中国と対峙するため、彼の思考を急旋回させる行動を承認しました。
米国は空母を南シナ海に派遣し、中国のハイテク企業が高度な技術を取得するのを阻止し、台湾への武器販売を増やし、スパイ行為の疑いで中国のヒューストン領事館を閉鎖し、人気のある中国のアプリを米国市場から禁止しようとしました。
当局者によると、さらなる懲罰的な動きが検討されていると言われています。
米国でのスパイ活動を支援している疑いのある中国の国営航空会社の従業員を監視し、米国の政治とビジネスに影響を与えるための中国政府支援の努力を追跡し、より多くの中国のテクノロジー企業をブラックリストに載せる…などです。
ワシントンの現在および元の当局者によると、3つの大きな変化が政権の方針転換の理由を説明しています。
•1月に北京との限定的な貿易協定が締結された後、トランプ氏の政治的計算が一変し、彼は現在、より厳しい対中政策を選択する事が彼の再選キャンペーンに適していると考えていること。
•コロナウイルスのパンデミックが中国から発生した後、今年、大統領に対するさまざまな強硬姿勢を進言する顧問が注目を集め、発言力を得るようになったこと。
•香港やその他の場所での中国政府の強圧的な行動が行政当局や議会を激怒させたこと。
国務長官マイク・ポンペイオは「中国共産党は、世界中の人々が彼らの行動をどのように見るかについて真剣に考える必要がある」と述べています。
米国の新たな攻撃姿勢は、米中両国間の関係を過去数十年で最低点にまで押し下げ、投資家を驚かせるに十分でした。
それどころか、中国当局者と政府顧問によると、それらは中国の指導者さえも混乱させたと言います。
両国政権がトランプ氏と中国の指導者である習近平国家主席との個人的な蜜月関係を強調したわずか数年後、米国当局は現在、中国の最高指導者を『世界的覇権を手に入れるために猛進してやまないスターリンの後継者』と呼んで公然と非難しているからです。
どちらが大統領選挙に勝ったとしても、対立が緩和される可能性は低いと見做されています。
トランプ氏は、中国との敵対的な姿勢について選挙キャンペーンで支持者にアピールしています。
ジョー・バイデン候補の顧問は、トランプ政権による中国の危険性の分析を共有していると述べています。
トランプ政権は最初の年に、彼の貿易協定を推進させるにあたって、中国政府に敢えて困難な要求を突きつけるという戦術に打って出ました。
例えば関税を急上昇させました。
その一方でトランプ氏は、習近平氏を称賛し、香港に対する中国の脅威と人権問題を意図的に軽視し、交渉の邪魔にならないように配慮したとも言われています。
トランプ氏の上級顧問によれば、彼が中国に対し攻撃の矛先を向けることを明確にする特定の出来事はなかったと言います。
むしろ、新型コロナウイルスが中国から米国に広がり、アメリカ人を死亡させ、経済を破壊し、彼の再選を脅かすにつれて、トランプ氏の不満は徐々に高まりました。
彼の政権はパンデミックへの対処について国民的批判に直面したので、彼はパンデミックの発生を速やかに阻止したとして中国を称賛することを放棄し、その感染経緯を非難することに変わりました。
中国外務省の趙立堅報道官は3月、米軍がコロナウイルスを中国に持ち込んだ可能性があるという根拠のない噂についてツイートしましたが、これはトランプを何よりも激怒させたと行政当局者は述べています。
「それは緩やかな進化でした」と商務長官のウィルバー・ロスは言いました。
「ビッグバンのように突然に世界が変わったわけではありません」
トランプ政権の強硬派は、北京と話し合いの場を開く理由はほとんどないと言っています。
5月、習近平氏は、香港の元支配者である英国との間の誓約であった一国二制度(香港を他の中国の都市とは異なる方法で扱うという中国の方針)を破棄しました。
ポンペイオ氏やその他の人々にとって、この動きは「中国の指導者が信頼できない理由」を具体化したものであるとの主張を後押しするものでした。
「これは、中国共産党が約束した核心的な誓約を再び破ったという露骨な例でした」とポンペオ氏は語っています。
台湾は対立が深まっている地域です。
トランプ氏は就任後、最初の3年間、台湾にはほとんど無関心だったと国家安全保障当局者は述べています。
香港の事件を受けて、ポンペイオ氏は「台湾が北京の次の標的になる可能性がある」と主張しました。
8月以来、トランプ氏は台湾へ、過去に前例のない高位当局者の訪問を承認し、保健福祉長官のアレックス・アザールを台湾に派遣しました。
両政府は「二国間経済対話」を開始しましたが、これは正式な貿易交渉に準ずるものです。
米国はまた、中国からの攻撃を撃退するために必要となる巡航ミサイル、地雷、無人機の台湾への販売を進めました。
これに対し北京は、本土と台湾を隔てる台湾海峡の中央線を突破して18機の軍用機を飛来させました。
こうした北京の一連の反応は、台湾当局によって『脅迫』と見做されています。
台湾との緊密な関係を長らく求めてきたものの、ほぼ何らの成果も得られなかった元国家安全保障顧問のジョン・ボルトン氏は「力学的な変化が起こっている」とコメントしました。
彼は「トランプ政権内で中国に敵対する意欲が、かつてないほどに高まっている」と述べました。
「今では、この試みに反対の意思表示をしようとする勢力は衰退し、ホワイトハウスからほぼ一掃されました」と彼は付け加えました。
U.S.’s China Hawks Drive Hard-Line Policies After Trump Turns on Beijing
The Wall Street Journal
日本にもトランプ氏を強く支持する人たちはかなり存在しています。
彼らは中国を叩きのめしてくれるのはトランプ大統領しかいないと考えているようですが、ここで敢えて憎まれ口を申し上げます。
彼は自分にとって都合の悪い存在の全てを敵視しているだけです。
このことは、中国の出方次第では、トランプ氏の思考の向かう先が再び急旋回する可能性を示唆するものです。
中国が彼個人にとって有益な取引を持ちかけてくれば、トランプ氏は習近平国家主席と優雅に晩餐を共にするでしょう。
逆に日本が彼にとって不利益な存在と見做されれば、彼は容赦無く日本を敵視してくると思います。
管理者 黒岩留衣