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コラム:RNAワクチンは生命科学の奇跡

by 黒岩留衣
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「私をじっと見てください」と医者は彼女のプラスチック製のフェイスガードの後ろから私を見つめながらそう言いました。

彼女の目は青く、病院のマスクとほぼ同じくらいのブルーでした。

それでも、しばらくすると、私は急に向きを変え、左側の医者に目を向け始めました。

医者は、長い注射針を私の上腕の筋肉の奥深くまで突き刺していました。

 

“ダメです!”最初の医者が言いましたした。

“私を見て!”

そして彼女は説明を始めました。

私は実験的なcovid-19ワクチンの二重盲検臨床試験に参加していたので、実際のワクチン用量を注射したのか、生理食塩水でできたプラセボ(偽薬)を注射したのかについて、手がかりが得られないようにする必要がありました。

 

それは8月初旬の出来事でした。

私は、つい最近、非常に有望な結果を報告したばかりのワクチンの臨床試験に参加しました。

それは、ファイザーがドイツの会社バイオエヌテックと共同で開発したものです。

これは、これまで展開されたことのない新しいタイプのRNAワクチンです。

 

ワクチンは、人の免疫システムを刺激することによって機能します。

従来のアプローチの1つは、危険なウイルスの弱毒化バージョンを注入することです。

これが、はしか、おたふく風邪、風疹、水痘を回避する方法です。

別の方法は、一部または全部を死滅させたウイルスを使用することです。

 

ファイザーのワクチンが成功すれば、2020年は従来のワクチンが遺伝子操作型ワクチンに取って代わられ始めた最初の年として人々に記憶されることを意味します。

これらの新しいワクチンは、ウイルス自体の少量、かつ安全な用量を接種する代わりに、ターゲットウイルスの成分を独自に生成するようにヒト細胞に指示する遺伝情報の一部を提供します。

これらの安全なコンポーネントは、患者の免疫システムを刺激することができます。

これは、遺伝情報の知識がデジタルコーディングと同じくらいに重要になり、生体分子が新しいマイクロチップになるというバイオテクノロジー革命の驚くべき奇跡です。

 

私は、故郷のニューオーリンズにあるオクスナー病院でワクチンの臨床試験に登録しました。

これは、良き市民でありたいと願う理由もありますが、CRISPR(クリスパー)と呼ばれる遺伝子編集ツールに関する本を書いているためで、本の中心的なテーマはRNAです。

 

ファイザーとバイオエヌテックによって開発されたワクチンは、RNAが実行する最も基本的な機能を利用します。

つまり、細胞の核内に埋蔵されたDNAから細胞の製造領域に遺伝子命令を運ぶメッセンジャーRNA(mRNA)として機能し、どういったタンパク質を作るかを指示します。

covid-19ワクチンの場合、mRNAは、コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質を模するように細胞に指示します。

そうして作成されたスパイクタンパク質は、人体の免疫システムを刺激し、本物のコロナウイルスから保護する抗体を作成することができます。

ファイザー版に加えて、マサチューセッツ州ケンブリッジに本拠を置く企業モデルナもmRNAワクチンを製造しています。

 

私が志願したとき、私は追跡調査が2年続きますと言われました。

それはいくつかの疑問を提起しました。

もしも、それ以前にワクチンが承認されたらどうなるのか?

私はコーディネーターに質問しました。

彼女は私に「盲検臨床試験ではなくなります」と言いました。

つまり、私がプラセボを手に入れたかどうかを教えてくれて、もしもそうなら、すぐに本物のワクチンをくれるということです。

私たちの試験がまだ進行中に、他の会社のワクチンが承認されたらどうなるでしょうか?

「それは決まっていない」と彼女は認めました。

 

私はこれらの質問を、ワクチン研究に資金を提供し監督している国立衛生研究所の所長であるフランシス・コリンズに提起しました。

「あなたは今、非常に重要な質問をしました」と彼は言いました。

ほんの数日前に、この問題に関する「相談報告書」が国立衛生研究所の生命倫理学部によって作成されたというのです。

レポートを読む前から、国立衛生研究所には生命倫理学科と呼ばれるものがあることに感銘を受け、安心しました。

 

レポートは思慮深いものでした。

ワクチンの臨床試験中に、ワクチンがFDAの承認を得た場合、プラセボ群に属していればすぐに本物のワクチンが与えられます。

ある試験に参加していて、別の会社のワクチンが承認された場合、新しいワクチンはプラセボ群に属していた人々に提供されます。

 

なによりRNAワクチンについての素晴らしいニュースは、それらが簡単に再プログラムできるということです。

covid-19を倒打ちのめした後でも、また新しいウイルスがやってくるでしょう。

仮にそれが起こったとき、新しい脅威を標的とするワクチンを作るために新しいRNA配列をコード化するのにほんの数日しかかかりません。

RNAで作られたツールは、私たちの遺伝物質を編集することを可能にし、簡単にワクチンを再プログラムすることを可能にします。

 

RNA、それは数十億年前に地球上に初めて生命の根源を生み出した最も基本的な分子であり、同時にバイオテクノロジーの新時代の幕を開ける新しい分子でもあります。

 

 

ウォルター・アイザクソンによる寄稿文

I was part of a trial for Pfizer’s covid-19 vaccine. It’s a miracle for genetic medicine.

The Washington Post

ウォルター・アイザクソンはアメリカの作家であり、ジャーナリストであり、そして教授です。

彼はワシントンD.C.に本拠を置く無党派の政策研究組織であるアスペン研究所のCEOであり、CNNのチェアマンであり、Timeの編集者でもあります。

彼は3月に出版される「コードブレーカー:ジェニファー・ダウドナ、遺伝子編集、そして人類の未来」の著者でもあります。

カリフォルニア大学バークレー校の生化学者ジェニファー・A・ダウドナ博士は今年のノーベル科学賞の共同受賞者です。

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