Home 時事ニュース 米国FDA、回復期血漿療法の緊急使用を容認

米国FDA、回復期血漿療法の緊急使用を容認

by 黒岩留衣
137 views

米食品医薬品局(FDA)は23日、新型コロナウイルスによる感染症COVID-19から回復した人の血漿(けっしょう)について、新型ウイルス治療での緊急使用を許可すると発表しました。

この技術は、新型コロナウイルス感染症の疾患から回復した人々から提供された抗体豊富な血漿を使用します。

FDAによれば、米国の約70,000人以上の患者に、すでに適用されているとのことです。

 

FDAは、初期の試験では安全であると示していますが、有効性を証明するにはさらに多くの試験が必要であると主張してきました。

何人かの専門家は、その使用に対する研究の堅牢性に疑問を呈しています。

 

23日、ホワイトハウスの記者会見に笑顔で臨むトランプ大統領:ワシントン

この発表は、ドナルド・トランプ大統領が「FDAは政治的理由によってワクチンと治療の展開を妨害している」と異例の非難をした翌日に、そして彼がホワイトハウスで2期目の任期を獲得するためのキャンペーンの開始となるべく開催される共和党全国大会の前夜になされたものです。

 

大統領は記者団に対し「これは私が長い間楽しみにしてきたことだ」と語りました。

「中国ウイルスとの戦いにおいて、数え切れないほどの人命を救うための歴史的な発表をすることができて本当にうれしい」と彼は述べました。

 

トランプ氏は、Covid-19から回復した場合は血漿を寄付するようアメリカ人に呼びかけ、この技法を『非常に強力な治療法』であると説明しました。

ジョンズホプキンス大学の集計によると、米国での集団発生が始まって以来、176,000人以上がコロナウイルスで死亡しています。

また全米で570万件近くの感染症例が確認されてもいます。

この国は、世界の他のどの地域よりも多くの確定症例と死亡者を抱えているのです。

 

FDAは、特定の条件下に限り、研究者が治験目的で、コロナウイルス患者へ血漿輸血の使用することをすでに承認しています。

早期の研究では、血漿が病院に入院してから最初の3日以内に投与されれば、死亡率が低下し、患者の健康が改善されることが示唆されているといいます。

ただし、その有効性を証明するにはさらに多くの試験が必要です。

当局は、これまでに治療を受けた20,000人の患者の結果を検討した結果、安全であると結論付けたと述べました。

 

FDAは、80歳未満の人工呼吸器を使用しておらず、高レベルの抗体を含む血漿を投与された人々は、低レベルの抗体を投与された血漿を投与された人々よりも、治療後1か月で35%優れた生存率を示したと述べています。

「製品はこれまでのところ安全であり、私たちはそれに一応満足しており、安全性に関する懸念はありません」とFDAの生物製剤評価研究センターの責任者であるピーター・マークス長官は述べています。

 

一方、トランプ氏自身のコメントでは、血漿輸血は「死亡率を35%も削減することが証明されている」と述べ、マークス長官のような微妙な表現は使用していませんでした。

ホワイトハウスのコロナウイルス対策委員会のメンバーであるアンソニー・ファウチ博士を含む数人の専門家は、これまでの研究の頑健性について判断の留保を表明しています。

 

多くの国が血漿をコロナウイルス療法として使用していますが、治療がどれほど効果的であるかはまだ明らかではありません。

『緊急使用』を許可するという米国FDAの決定は、リスクバランスです。

それは、これまでの証拠に基づいて、回復期の血漿が重症度を軽減したり、Covid-19疾患の長さを短くしたりする可能性があると述べています。

確かに、自身の免疫システムがパンデミック・ウイルスと戦うのに苦労しているコロナウイルスの患者は、Covid-19からの回復に成功した人々からの抗体豊富な血漿の輸血により保護を受ける可能性があります。

 

回復期の血漿は、エボラ出血熱を含む他の疾患の治療にも使用されてきました。

通常、忍容性は良好ですが、有害なアレルギー反応などの望ましくない影響が発生する可能性があります。

多くの国が血漿をコロナウイルス療法として使用していますが、治療がどれほど効果的であるかはまだ明らかではありません。

どの患者がどれだけの利益を得るかを正確に理解するための試験が各国で進行中です。

 

アメリカ感染症学会は声明の中で「回復期の血漿がCovid-19の患者の治療に役立ついくつかの肯定的なシグナルがありましたが、その有用性をよりよく理解するために必要なランダム化比較試験データが欠けています」と述べました。

ジョージワシントン大学の医学教授であるジョナサン・ライナー博士は、これを『政治的スタント』と呼びました。

「回復期血漿にはある程度の効果があるかもしれませんが、確実なデータが必要です」と彼はツイッターに書きました。

 

世界保健機関(WHO)の関係者は月曜日に、回復期の血漿を使用することは「まだ実験的な段階」であると述べました。

彼らは、それに関連するリスクと副作用(軽度から重度まで)を考慮する必要があると付け加えました。

「標準治療と比較して回復期血漿を検討している臨床試験は世界中で数多く行われています」

「ですが、実際に中間結果を報告しているのはごく一部だけです」

「現在のところ、それはまだ非常に質の低い証拠です」と WHOの主任科学者ソウミャ・スワミナサン博士(結核に関する研究で知られているインド出身の臨床科学者:翻訳者注)は記者会見で語りました。

 

オックスフォード大学で開発中のコロナワクチン候補「ChAdOx1」

土曜日のツイートでトランプ大統領は「FDAの『ディープ・ステート』(何を意味する単語なのか理解できません。各メディアも困惑しているようです:翻訳者注)か誰かが、製薬会社がワクチンや治療法の試験のために人を確保するのを非常に難しくしている」と述べました。

「明らかに、彼らは『大統領選挙』の後まで答えを遅らせたいと望んでいる」と彼は付け加えました。

 

一方、フィナンシャルタイムズのレポートは、11月3日の米国大統領選挙に先立って、ホワイトハウスがオックスフォード大学と製薬大手のアストラゼネカによって開発されているワクチンの緊急認可を与えることを検討していることを示唆しています。

ホワイトハウスはこの件についてコメントしていませんが、アストラゼネカの報道官はロイター通信に対し、その試験の有効性の結果は今年後半までは得られることはないと述べています。

 

ロイター通信は20日、科学者や公衆衛生関係者、議員らの間で、トランプ政権が大統領選を前に、FDAに対してワクチン承認の圧力をかけるのではないかとの懸念が生じているとも報じました。

FDAのピーター・マークス氏

生物製剤評価研究センターのマークス長官は、先週行われた政府関係者や製薬会社役員らとの会議で、トランプ政権が安全性と効能が証明される前にワクチンを承認した場合、辞任する意向を示したと伝えられています。

 

マークス長官はロイター通信の取材に対し、これまで政治的圧力を受けた事実はないとしつつも「安全ではなく、効果的でもないものが目の前を通過するのを傍観することはできない」と述べました。

「これは私の超えてはならない一線である」と述べ「辞任するのは義務だと思う。そうすることで、公衆に何かが誤っていることを示すことになるからだ」と語りました。

 

(参照:BBC


 

新型コロナウイルス のワクチンや治療法は1日も早く開発されることが望ましく、関係者も異例の態勢で努力を続けてくれています。

ですが、だからと言って医学的に求められる安全確認を省略することは容認されないでしょう。

自身の政治的な利益のために節を曲げろと言うなら尚更のことです。

 

ところで「ディープ・ステート」ってなんでしょう?

某メディアは『闇の反政府勢力』との注釈をつけていましたが、果たしてそんなものが実在するのでしょうか?

 

…しないんじゃないかな?

PR

外信記事を日本語でお届けします