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専門家がワクチンの緊急承認に反対する理由

by 黒岩留衣
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ワクチンの専門家は、臨床試験の結果、それが安全であり効果的であることが示されるよりも前に、コロナウイルスワクチンの緊急承認を急ぐことに対して、連邦政府に警告を発しています。

そしてワクチン開発の数十年の歴史は、彼らがそのように主張する理由を示しています。

 

米食品医薬品局のスティーブン・ハーン長官

FDAコミッショナーのスティーブン・ハーン長官がフィナンシャルタイムズ紙に語ったところによれば、後期臨床試験が完了する前に、Covid-19ワクチンの緊急使用許可(EUA)を検討する可能性もあることが示唆されました。

これに対し、一部の専門家の間では、FDAの動きが速すぎるのではないかという懸念が高まっています。

 

コミッショナーは、適切な又は承認された代替がない場合に限り、未承認の医療製品を緊急時に使用できるようにする権限を持っています。

緊急使用許可は完全な承認とは異なり、撤回することができます。

それがヒドロキシクロロキンとクロロキンで起こったことです。

FDAは3月28日にドナルドトランプ大統領から大いに称賛された医薬品を緊急使用することを許可しました。

その後の研究によれば、それらが有効ではなく、逆に深刻な心臓の問題を引き起こす可能性がある事が示され、6月に緊急使用許可は取り消されました。

 

ワクチンがFDAに承認されるためには、科学者は多数のボランティアよる臨床試験を通じて十分なデータを収集し、それが人々を病気から保護する上で安全かつ効果的であることを証明する必要があります。

データが収集されると、ワクチンは臨床試験プロセス全体とFDA承認プロセスを経る必要があり、これには数か月、場合によっては数年かかることもあります。

過去にはワクチン製造プロセスが急がれ過ぎたが故に、悪い結果がもたらされたことがありました。

 

1955年4月12日、当時の連邦政府は子供たちをポリオから保護するための最初のワクチンが開発されたと発表しました。

政府の号令を受けて、研究室は何千ものワクチンを緊急製造しました。

ところが製造されたワクチンには、誤ってポリオの生ウイルスが含まれていたため、アウトブレイクが発生してしまいました。

 

ハワード・マーケル博士:ミシガン大学

ミシガン大学医学史センターの所長であるハワード・マーケル博士は、政府は何が問題だったかを特定できるまで、ワクチン接種プログラムを一時停止せざるを得なかったと語りました。

しかし、監視の強化にもかかわらず、ポリオワクチンに関する別の問題を発見することができませんでした。

1955年から1963年まで、ポリオワクチンの10%から30%がサルウイルス40(SV40)によって汚染されていたのです。

 

「彼らがウイルスを育てる方法はサルの組織でした。これらのアカゲザルはインドから輸入されました。それも何万匹もです」

「彼らは一団の檻に入れられ、輸送中は死ななかったもの、多くは病気になり、その結果、ウイルスはすぐに広まりました」とスタンフォード大学の医学人類学者ロフラン・ジェイン博士は述べています。

 

マイケル・キンチ博士:セントルイス・ワシントン大学

1976年には科学者たちは、新型インフルエンザのパンデミックを予測しました。

セントルイス・ワシントン大学医学部教授であるマイケル・キンチ博士は「当時のフォード大統領は、彼の顧問から『新型インフルエンザはスペイン風邪と同じくらい酷いかもしれない』との助言を受けたのです」と語りました。

彼の最新の著書「Between Hope and Fear(希望と恐怖の間)」ではワクチンについての歴史が語られています。

 

フォード大統領はワクチンの緊急製造を指示し、予防接種を義務化することを決定しました。

CDCによると、約4000万人の人々が豚インフルエンザに対するワクチン接種を受けました。

ところがそのワクチン接種キャンペーンは後に、ギランバレー症候群と呼ばれる症例を引き起こしてしまいました。

ギランバレー症候群とは、感染後、またはワクチン接種後に発症する可能性のある神経学的疾患の症例を言います。

「残念ながら、それが非常に急いで行われたという事実のために、ギランバレー症候群の数百件の患者を出してしまいました」とキンチ博士は言いました。

 

CDCによると、ギランバレー症候群の発症のリスクは、豚インフルエンザワクチンを接種した10万人ごとに1例だったとのことです。

ですが政府はプログラムを中止しました。

「それは一種の大失敗でした」とマーケル博士は言いました。

 

「幸いなことに豚インフルエンザそれ自体の流行はありませんでした。それゆえ人々は安全でした」

「しかし、それはあなたの身に何が起こり得るかを示しています」

 

もともとアメリカの人々はワクチンの接種には積極的だったと彼は言います。

1955年に最初のポリオワクチンの失敗で大勢の子供たちが病気になった後でも、改めてプログラムが再開されたとき、両親は子供たちに予防接種を確実に受けさせました。

「両親は子供たちに、ポリオワクチンを接種するために列の先頭に立つように促していました。彼らは毎年夏になると流行し、子供たちが鉄の肺(当時使用されていた人工呼吸器の一種:翻訳者注)の中にいるのを見て恐怖していたからです」とマーケル博士は言いました。

 

マーケル博士は、人々のワクチンに対する態度は、1976年の豚インフルエンザ予防接種プロジェクトの前後で変わり始めたと語りました。

「警察が人々を暴行しているのをテレビで見た時、ベトナム戦争で人々が殺害にうんざりし始めた時、ウォーターゲート事件で大統領が嘘をついていると感じた時…」そう言ってマーケル博士は言葉を続けます。

「それらは当局と連邦政府への真の不信をもたらしました。そしてそれは医師や科学者にまで及んだのです」

「それは時が経つにつれて、改善されるどころか悪化しました」と彼は語りました。

 

マーケル博士は、FDAが後期臨床試験の結果が出る前に緊急承認を与えることは愚かなことであると考えています。

「これは私がこの政権の発言を聞いた中でも最も馬鹿げたことの1つです」と彼は言いました。

 

FDAコミッショナーのスティーブン・ハーン長官は、ワクチンの緊急承認の決定は、政治力ではなく科学的データに基づいて行われると述べましたが、キンチ博士はマーケル博士と同じ懸念を共有していると言います。

「これは大きな損害を与える可能性があります」とキンチ博士は言いました。

ワクチンの緊急使用許可が早すぎると、いくつかの理由で「悪夢のようなシナリオ」が引き起こされる可能性があると彼は言います。

 

「もしも失敗すれば、この国の人々は、今まで以上にワクチンへの信頼を失うでしょう」

「なにより、人々が不必要に死ぬかもしれません」とキンチ博士は述べました。

「したがって、ワクチンの臨床試験は、最後までこれを正しく行う必要があります」

 

(参照:CNN health


以前に、カナダのジャスティン・トルドー首相は、たとえワクチンが緊急承認されたとしても、それらの安全性と有効性について確信されるまでは、カナダ政府はこれを輸入しないと述べたことがありました。

彼はその時の講演で、彼の政府にも「できるだけ迅速にワクチンや治療薬を承認してほしい」という財界からの圧力があったことを認めていますが「政府が最優先に守らなければならないのは、国民の命と健康である」として拒否し続けたそうです。

ウイルスが猛威を奮ったのがカナダではなく、英国や米国であった理由の一端が垣間見えるような気がします。

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