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ワクチン開発に関するもう一つの大きな課題

by 黒岩留衣
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新型コロナウイルス予防ワクチンを何千万人もの米国人へ届けられるかどうかは「冷凍庫の数は間に合うのか?」という一点に尽きるかもしれません。

後期臨床試験の段階に入っているワクチンの中には、摂氏マイナス80度ほどの低温で保管しなければならないものもあるからです。

それはアイスクリームやステーキをスーパーマーケットに運搬し、さらに家庭の玄関に届けるのと似たような状況だと言えます。

 

予防接種は病院や薬局、診療所で行われる予定ですが、そうした施設はほとんど特殊冷凍庫を持っていません。

そのため輸送会社や公衆衛生当局、医薬品業界の関係者は、ワクチンが適切に保管されず、効果が失われることのないよう、全米各所に低温保管の物流網(コールドチェーン)をはりめぐらすべく奔走しています。

 

医薬品のグローバルサプライヤー「カタレント社」の超低温冷蔵庫:開発中のワクチンの中には超低温で保存することを要求するものもあるという

装置や保管能力を巡る懸念を解消するため、各地の病院は特殊冷凍庫の購入を検討しているといいます。

一方、運送会社や新手のヘルスケア企業は可動式の冷凍庫を大量に保管する施設「フリーザー(冷凍)ファーム」を建設中です。

 

ワクチンは乳製品や肉類に似ていて、一定の温度に保たれることで化学構造が維持される仕組みになっています。

水疱瘡や帯状疱疹などの予防ワクチンに関しては、製薬会社は適温についてのデータを豊富に持っています。

ただし、猛烈なスピードで開発が進んでいる新型コロナ予防ワクチンでは、通常は臨床試験の完了後に知ることができる貯蔵要件の情報を研究者はまだ入手できていない状況にあります。

 

新型コロナ予防ワクチンの超低温貯蔵は、輸送や保管の面で条件を満たさねばならず「サプライチェーンの負担が大きい」と指摘するのは、米国内の病院や診療所向けの仕入れ大手プレミアで災害対策を主導するチョーン・パウエル氏です。

彼は「米国の大人3億人に届けることを考えれば、物流面の効率が徹底されるほど、われわれは配送がしやすくなる」とし「とにかく、どうやって解決するかです。家庭から1時間の距離にどうやって届けるか」と付け加えました。

 

新型コロナワクチン開発で先行する2つの候補薬は、mRNAと呼ばれる遺伝子を基盤とする新技術を用いており、氷点下の低温で保管する必要があるといいます。

一方は製薬大手ファイザーとその提携先の独バイオンテックであり、もう一方は米バイオテクノロジー会社モデルナが開発しています。

いずれのワクチンも摂氏マイナス70~80度ほどの超低温で保管されなければなりません。

 

細胞治療薬などの医薬品も超低温で輸送され、液体窒素やドライアイスを使うことが多いそうです。

ただし、それにはコストが掛かかりすぎるとのことです。

しかも、これほど多くのワクチンを迅速に扱う事例はかつてなかったことです。

 

保健当局や業界関係者は、最初に予防接種が行われる場所は「おそらく病院になるはずだ」と考えており、最初は何百万人もの医師や看護師ら医療関係者が接種の対象になるとみています。

ですが多くの病院はワクチンを超低温で保管する場所や装置を持っていないのが現実です。

 

装置がないということは、全米各地におけるワクチンへのアクセスは一様ではない可能性が出てくるということです。

「保管と輸送施設がある場所にワクチンを集約するしかない」とバンダービルト大学医療センターのウィリアム・シャフナー博士は語っています。

「全てのワクチンを全ての場所で使えるとは限らないということです」

 

超低温の特殊冷凍庫は病院の一般的な設備ではありません。

インフルエンザのワクチンは通常冷蔵保存されており、それで十分なのです。

 

専門家によると、新型コロナのワクチンは低温で保管しても使用期限は短く、6カ月以内に使わなければならないかもしれません。

これは他の医薬品よりはるかに短いものです。

 

新型コロナのワクチン開発プロジェクトを資金支援する感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)に助言しているコンサルタント、ジェームズ・ロビンソン氏は「ワクチンが製造後すぐに使われ、コールドチェーン倉庫は長期保管のためではなく、必要とされる場所への配送だけが目的であることが望ましい」と述べました。

 

フィラデルフィアのジェファーソン・ヘルス病院では、摂氏マイナス30度でワクチンを保管できる施設を保有していますが、超低温の保管スペースは限られていると最高医薬責任者のブライアン・スウィフト氏は述べています。

3万人もの従業員・関係者らに予防接種を始める予定のジェファーソン・ヘルス病院では、少なくとも15台の特殊冷凍庫が必要となる計算だそうです。

 

スウィフト氏は「誰もがこういったものを探し求めるようになるでしょう」と述べ「われわれはすぐには入手できない高性能冷凍庫の購入を検討していますが、サプライチェーンは限られています。本当に入手できるかどうか非常に心配しています」と語りました。

 

(参照:ウォールストリートジャーナル


先日、米国のFDAが来月までにワクチンを人々に届けるための準備を整えるように各州政府に要請したという記事をお届けしました。

その際に、最大の問題となるであろう課題の1つはロジスティックス(物流システムの構築)であろうと短く述べられていました。

実は、その時は正確な意味が理解できず、その部分の記述を除外したのですが、今ならわかります。

ここに来て、当初予想もしなかった課題が次々に浮かび上がっており、日本も隙なく対処できるように今から工夫していただきたいものです。

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