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スエズ運河を救った幸運な星の巡り合わせ

by 黒岩留衣
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海上交通の要衝であるスエズ運河で立ち往生した巨大コンテナ船、エバーギブン号を離礁させるため、エンジニアが必要としたのは幸運な「星の巡り合わせ」だったと言えましょう。
実際、その日は太陽と地球と月が一直線に並んでいたのです。

 

エジプト東部のスエズ運河で座礁した大型船「エバーギブン」を移動させる作業は難航を極めました。
海難救助チームは今週の満月に望みをかけるしかありませんでした。
満月の頃、潮位は通常の満潮時より数十センチ上がるのです。
そのため全長400メートルの船体を運河の岸壁から引き離すのが、その分、容易になるはずでした。

 

限られた可能性を最大に生かすため、エンジニア達は迅速に作業する必要がありました。
効果が続くのはわずか2、3日でしかありません。
ですが、運河の通航を再開させるには、ここでベストを尽くすしかなかったのです。

 

満月や新月のたびに、干潮と満潮の潮位差は大きくなります。
これは月が太陽と直線上に並び、地球と月のどちらかが3者の真ん中に位置する時に起こる現象です。
これによって地球に働く引力が大きくなり、その結果、満潮時には潮位がより高く、干潮時には潮位がより低くなります。
これは大潮と呼ばれ、月に2回発生する現象です。

 

しかも今回はその効果が増幅されました。
満月がちょうど、楕円軌道上で月が地球に最接近する時期と重なる、今年最初の「スーパームーン」だったからです。
スーパームーンは年に数回起きる現象ですが、この時期は北半球で地上にはい出すミミズにちなんで「ワームムーン」とも呼ばれています。

 

タグボートだけでは巨大コンテナ船がびくともしないことが判明するや、救助チームはスーパームーンの潮位への影響に注目しました。
それが座礁した船を動かす千載一遇の好機ではないかと考えたのです。

 

この作業に携わった複数の関係者によると、潮位の上昇を念頭に、大量の土砂を取り除くために浚渫船を使った作業が24時間ぶっ通しで続けられました。
3月28日夜にはスーパームーンの影響で、エバーギブン号が浅瀬に乗り上げた23日の満潮時よりも約50センチ潮位が高くなっていました。
救助チームにとって最大のチャンスが近づいていたのです。

 

現地時間の午前2時、作業支援のためにオランダ船籍のタグボート「アルプ・ガード」が到着。
このタグボートは285トンのけん引力を持ち、作業を大きく前進させました。

 

午前5時頃、船首が運河東側の岸から離れ、船尾は西側の岸から約100メートル移動して水路に出ることに成功しました。
潮が引いて、船はゆっくり動き始めました。
現場では夜明けと共に「アラー・アクバル」(神は偉大なり)と歓声を上げるクルーの姿が映像に記録されています。

 

遭難船引き揚げの専門家ニック・スローン氏は、大潮による何センチかの潮位上昇が決定的な違いとなり、数千トンの浮力が加わってエバーギブン号を離礁させることに成功したと述べています。
エバーギブン号の離礁により、通行止めを余儀なくされていたスエズ運河の通航は再開されました。
スエズ運河当局は数日中の正常化を予想していると述べています。

 

航行追跡データによると、少なくとも3隻の通過が確認されました。
物流・海運サービス会社のGACは先にスエズ運河当局の話を引用して、現在437隻が足止めされていると指摘していました。
コンテナ船運航会社ハパックロイドは、運河の渋滞が4日以内に解消されると予想しています。

 

 

The Wall Street Journal:2021年3月31日

原題:How a Supermoon Helped Free the Giant Container Ship From the Suez Canal
引用:https://www.wsj.com/articles/how-a-supermoon-helped-free-the-giant-container-ship-from-the-suez-canal-11617040923

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