コロナウイルスのワクチンが間もなく登場します。
今の世界の問題は、誰が最初にワクチンの接種を行うべきかと言うことです。
今後の数ヶ月間で、ワクチンは確かに配給されるでしょう。
ですが、確実に需要が供給を上回ります。
利用できる線量は数十億ではなく、数百万の単位になるでしょう。
世界中の保健当局は、国内でのワクチンの割り当てを優先するリストを作成し始めたばかりです。
実はこれが、思ったより難しいようなのです。
各国は公平性と便宜性の問題に取り組む必要があります。
彼らは、ウイルスの拡散を阻止することに対して最も脆弱な人々の命を救うこと、および必要不可欠な労働者を職場に留めておくべきこととのバランスをとる必要性に迫られているからです。
厳しい決断が待っています。
誰が最初に、そして2番目、3番目に接種するべきは誰なのか?
WHOによれば、ヨーロッパでは、covid-19によって17秒ごとに死亡者が出ています。
フランスの科学諮問委員会は、年齢と職業を根拠に優先度の高い人々としてフラグを立てています。
しかし、用量は限られています。
当局者は、たとえば、乗客と1日中限られた空間を共有する26歳のパリのタクシー運転手と、プロヴァンスの別荘から離れた場所で仕事をしている69歳の投資家のどちらかを選択する必要に迫られるかもしれません。
年齢はcovid-19による合併症のリスクが高まります。
各国は他のリスクグループをどのように評価すればいいのでしょう?
肥満はcovid-19による深刻な合併症の併存疾患です。
最も裕福な国の肥満は、ワクチンの接種を待つ長い列を飛び越えることが許されるべきでしょうか?
それとも単に深刻な肥満に限るべきでしょうか?
英国または米国は、死にゆく人々の大部分を占める人種的および民族的マイノリティに対してどのような保護責任を負えば良いのでしょう?
規制当局の緊急承認により、早ければ年内にもワクチンの投与が始まると予想されています。
割り当ての決定は、ワクチンの承認後数日以内に米国疾病対策予防センターによる決定により、米国で具体化する可能性があります。
全米科学技術医学アカデミーは、人種的不平等への取り組みを「道徳的要請」と呼びました。
一部の国では、ウイルスを広める可能性が最も高いグループをターゲットにしたいと考えています。
刑務所は世界中で感染のホットスポットとなっています。
他にはもちろん大学もあります。
低リスクの人々は、犯罪を犯した人々や、公衆衛生上の制限を無視してパーティーを楽しんでいる大学生よりもランクが低いことを知って平気でいられるでしょうか?
多くの国が、救急車の救急隊員などの最初の対応者と並んで、最前線の医療従事者を最優先にすべきであることに同意しています。
しかし、医療従事者のカテゴリー内でさえ、誰を優先するべきかという疑問が生じます。
たとえば、英国の国民保健サービスは140万人の労働者を雇用しています。
それらのすべてが患者と濃厚接触するわけではありません。
各国のタスクフォースは、列の先頭に並ぶべき人は高齢者であるべきだと言っています。
彼らは、covid-19による重篤な病気と死亡のリスクが最も高いからです。
今月、日本は医療リスクに合わせてワクチンを配布することを目指しており、その最前線に高齢者がいると厚生労働省が発表しました。
ウイルスが最大の被害をもたらした、ベルギー、英国、スペインなどのヨーロッパの保健当局は、介護施設の居住者と、その介護者の早期接種に傾倒する可能性が高いようです。
ベルギーは介護施設をcovid-19から保護すると誓いを立てました。
そこにいる人々は、いまだ世界で最悪の死のリスクに向き合っています。
そこから先はさらに複雑になります。
イーストアングリア大学の医学教授であるポール・ハンター氏は次のように述べています。
「人々は明らかに、医療従事者と介護施設の居住者を優先的に保護したいと思っています。彼らは非常に脆弱であり、その決断は比較的簡単です」
「ところが、彼らの列に続くべき『不可欠な労働者』の定義とは何でしょう?」
「それは非常に大きなグループになる可能性があります」とハンター氏は言いました。
「私はこれらの決定に携わる必要が無いことを個人的にうれしく思います。しかし、誰かがその重い責任を背負わなければなりません」
専門家は、決定は透明でなければならず、公務員や政治家だけの解釈ではなく、社会によって広く受け入れられた基準に基づくべきであると述べています。
政府がある特定のグループを他のグループよりも優先させる理由を説明し、理解させることは、市民に辛抱強く順番を待つために重要なことなのかもしれません。
ドイツのワクチン委員会は、年末までに、誰が早期アクセスを許可されるかについての詳細を含む、科学的、または医学的研究に裏付けられたランキングを提示すると述べました。
「我々は科学的証拠に基づき、優先順位が特定のグループに割り当てられる理由を明確に示します」とドイツ委員会は述べました。
フランスでは、市民レベルで優先事項についての積極的な議論が深まっています。
英国ではそうではありません。
それは各々の集団や組織からの不平不満につながっています。
英国議会の労働党の党首であるデール・キャンベル・セイバーズは「夜を避難所で過ごしている脆弱なホームレス」に「優先順位」を与えるべきだと主張しました。
「それは私たちが困っている人たちのためにできる最低限のことです」と彼は言いました。
これに対し、保守党の党首であるコリン・モイニハンは、2021年の東京オリンピックで英国を代表するであろうアスリートとそのサポートチームを優先することを強く求めています。
日本は、東京オリンピックが開催される2021年半ばまでに全国民にワクチンを提供することを目指し、さまざまな潜在的なワクチンメーカーからの供給を確保するべく奔走しています。
オックスフォード大学の保健経済学者であるフィリップ・クラーク氏は、優先リストの緊急性は、ワクチンが広く利用可能になるまでにかかる時間に依存するだろうと述べました。
「誰もが手軽にワクチンを接種できる状態にある場合、誰が最初に接種するか、あるいは最後に行くかは問題ではないかもしれません」と彼は述べました。
「しかし、ワクチンがゆっくりと、何ヶ月にもわたって供給される場合、誰が最初に接種し、誰が最後に接種するかは非常に重要な問題になる可能性があります」
ワクチンが承認される前に予約注文をする余裕がなかった貧困国の場合、順番はさらに重要になります。
クラーク氏は、個人や経済にとって文字通り生死を分かつ問題となる可能性があるため、ほとんどの社会でまだ広く公の議論が行われていないことに驚いていると述べました。
英国政府は、医療従事者と介護施設の住民に予防接種を行った後、ワクチンの優先順位をはじめに80歳以上、次に75歳以上、その次に70歳以上というように、年齢層に応じて順次リスクの低いグループに拡大することを模索しているようです。
クラーク氏は、年齢による割り当ては「検証可能で単純」であり、一般の人々はそのようなアプローチを受け入れるかもしれないと述べました。
一方で彼は、英国では、いくつかの職業は明らかに他の職業よりも危険であるとも述べています。
「春のパンデミックの第一波は、警備員や配達ドライバーの死亡率の方が、むしろ医療従事者よりも高いことを示しました」
ドイツのワクチン委員会は、社会での仕事が「簡単に置き換えることのできない人々」に優先順位を与えるべきであると述べました。
ドイツ政府は、もちろん多くの人がかけがえのないものだと思っていますが、これらの労働者とは公衆衛生官、警察、消防士、教師であると示唆しています。
インドネシア政府は経済を維持するために若年労働者の保護に重点を置いています。
一方、中国では貨物船の積み下ろしなどの重要なサービスを提供する港湾労働者を含めたいと考えているようです。
徹底的な対策を通じて、ウイルスの国内拡散を大幅に鎮圧した中国では、主な感染リスクは輸入症例であるため、誰が最初に予防接種を受けるかについての計算は欧米とは異なると言うわけです。
中国は、緊急使用ワクチンを優先するグループの中に、海外旅行計画を持つ市民も配置しました。
市民がウイルスを持ち帰ることを防ぐだけでなく、パンデミックの起源が中国であるために多くの場所で反中国感情が高まっているので、中国国民が海外でウイルス拡散の原因になってもらっては困ると言う事情もあるようです。
中国国家衛生委員会の最高責任者である鄭中衛(Zheng Zhongwei)氏は先月、ワクチンへの優先順位について、リスクの高い労働環境にある者、脆弱なグループ、一般市民の3つの層に分類されたと述べました。
脆弱なグループには、中国の子供たちが含まれます。
「どの地域の人であっても、これらの条件を満たしていれば、ワクチンの優先順位を受けることができます」と彼は言いました。
さらに別のアプローチは、いっそランダムにすることです。
2011年の米国映画「Contagion(注1)」では、弱毒化されたウイルスから作られたワクチンは「くじ引き」で一般に配布されます。
それは大げさな考えではありません。
ランダム化、または宝くじは、過去に希少で命を救う薬を配布するために使用されてきた前例があります。
最近では、重症のcovid-19患者を治療するためのレムデシビルの割り当てがそうでした。
Coronavirus vaccines are coming. Who should get them first?
The Washington Post
注1)『コンテイジョン(伝染)』は、2011年のアメリカの恐怖映画。高い確率で死をもたらす未知のウイルスが全世界で蔓延し、日常が加速度的に崩壊していくさまを徹底的な科学的考証に基づいて描いた作品。作中のパンデミックの発生源は香港。世界的な影響力を持つ人物が陰謀論を唱えたことがきっかけで、世界にパニックと疑心暗鬼が拡散していくなど現実にオーバーラップする部分が多いと話題になっている作品。キャッチコピーは「Nothing spreads like fear(恐怖より早く広がるものはない)」
この映画は今から9年も前の作品ですが、当時は娯楽作品として眺めることもできたでしょう。
今ではリアルすぎて怖いくらいです。
この作品の監修には疫学の専門家が携わっているそうで、科学雑誌「ニュー・サイエンティスト」にも最近取り上げられました。
ご覧になる方々には覚悟が必要な映画です。
管理者 黒岩留衣